92 そしてフォースは――。
女性が言う。
「ほらね。やっぱり異常はありませんでした」
「し、しかし、ならこの胸の痛みと苦しみはなんなのですか……⁉ 私は確かに……っ」
思わず立ち上がったフォースをまっすぐに見据えて、女性は答えた。
「恋患いです。……まさか実際にこんなこと言う日が来るとは思いませんでしたが」
やれやれと女性が肩をすくめる。フォースが真面目なことは知っていたが、まさかここまで鈍感で朴念仁だとは思っていなかったのだ。
「こい……わずらい……⁉」
「恋の病と言い換えてもいいかもしれませんね。恋愛ものの漫画や小説などでときおり出てくるでしょう?」
「……自分は、そのようなものはあまり読みませんので……」
「ああ、フォース様は学術書や魔法書のほうをよく読むのでしたね。とりあえずお座りください」
「…………」
まさか自分がそんな……とでも言いたげに困惑した様子を見せながらも、フォースは再び椅子に腰を下ろす。彼は戸惑いの目を女性に向けながら聞いた。
「……どうすれば、この病は治るのでしょうか……?」
「あのですね、本当に病気になっているわけではなく、あくまで比喩的な表現です。恋愛感情に正解や特効薬などというものはありません」
……この人は初恋らしいからなぁ……。そう思いつつ、半ば呆れながらも女性は言った。
「それでも、しいて特効薬があるとすれば、その恋に決着をつけることでしょうね」
「……決着……」
「一番は成就させることで、それができないのならきちんと諦めて失恋させること。いつまでも宙ぶらりんのままでは、ずっと胸のわだかまりは消えてくれないでしょう。最悪、一生後悔することになります」
「…………、……私は……どうすれば良いのでしょうか……?」
うつむきがちにフォースは尋ねたが、女性は突き放すように答えた。
「言ったでしょう、恋愛にこれという決まった正解はないのです。他人に決めてもらうものでもありません。自分の恋の正解は、自分で導き出さなければいけません」
「……それが……自分なりの決着である、と……」
「その通り。理解が早くて助かります」
女性は座っていた椅子から立ち上がりながら。
「フォース様が誰に恋したのかは、あえて聞かないでおきましょう。まあ、話の流れ的に察しはつきますしね。それよりも大切なことは」
フォースがうつむいていた視線を女性へと上げる。その彼に女性が締めくくるように言った。
「フォース様がどうしたいか、どうするべきか、です。時間はもうあまり残されてはいませんが、それでも完全にないわけではありません。残された時間で考えて、行動して、あるいは選択して、自分なりの答えを導いてください」
「……私に、できるでしょうか……」
「できなければ、そのときはそれまでのことです。自分を信じてください」
「…………」
「貴方に女神と天使の加護があらんことを。まあ、気まぐれな女神と怠惰な天使かもしれませんが」
女性が微笑む。
そしてフォースは――。
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