9 婚約者達
屋敷の広くて長い廊下を、リズは御者のあとを追うようにして歩いていく。普段からあまり口数の多くない御者なのだろうか、その背中はリズに雑談の声をかけることもなく廊下を案内していく。
先ほどの恥ずかしさがようやく和らいできて、リズは相変わらず豪勢な屋敷の内部を見渡しながらも、ちらちらと御者のほうを見ていた。なにかしら言葉をかけられたらすぐにでも応答できるように心構えをしていたのだが、結局御者は声をかけることはなく、廊下の先のとある部屋の前で立ち止まった。
「こちらでございます」
御者がドアを開けて、ドア横で控える。ドアの向こう、開けた視界の先には広々とした室内があり……そこに三人の女性が各々の場所で待機していた。
切れ長の目で理知的な女性は、部屋の中央のソファに腰かけてティーカップを手にしていた。
身長が高く、まるで戦士のように鍛えた身体の女性は、腕を組みながら壁に背をもたれさせて立っていた。
穏やかで柔和な雰囲気の女性は、部屋の隅にある椅子に座って本に目を落としていた。
三人が三人とも、雰囲気こそ異なっていたが、リズが思わず溜め息を漏らしそうになるくらいの美貌の持ち主だった。
彼女らこそが、リズ以外の三人の婚約者達に他ならなかった。
ドアが開けられたことに気づいた三人が、一様にドアのほうへと……ドア前にいるリズへと目を向ける。一時に集中する視線を受けて、思わずリズは身がすくんでしまう気持ちになってしまった。
「リーゼロッテ様……?」
「あ……はい、すみません……」
部屋に入ろうとしないリズに御者が声をかけて、リズはなんとか気持ちを持ちこたえさせて室内へと足を踏み入れる。三人の観察する視線を受けて、心臓がどきどきとしてしまい、普段通りの歩き方をすればいいだけなのに、手に汗握るような緊張感を持ってしまった。
とにかくどこか座る場所をと……リズが目をぐるぐるさせるようにして座れる場所を必死に探そうとしたとき、視界の先の理知的な女性が声をかけてきた。
「どうぞ、こちらへ」
「あ……はい、ありがとうございます……」
女性が手で示したのはテーブルを挟んだ向かい側のソファであり、その前のテーブルにはカップとソーサーも置いてある。ソファ自体はテーブルの四方、東西南北を表すように四つ据えられていて、それぞれのソファの前には、理知的な女性が持つ分も合わせて、計四つのカップとソーサーがあった。
元々は四人の婚約者のために用意されたカップなのだろう。しかし実際には、そのうちの二人はソファとは別の場所にいることを選んだようだったが。




