87 わたしにとっては政略結婚となんら変わりません
スクエアは驚いた顔をしたがリズは構わずに続ける。
「あなたとの婚約も結婚も仕方がないからしたんです。政略結婚とは違うでしょうが、あえて言いましょう、これはわたしにとっては政略結婚となんら変わりません」
「な、な、な、無礼だぞお前! この俺はこの国で最高の権力を持つ貴族のヴォクス家の跡取り息子なんだぞ! そんな無礼な発言は……!」
「ご両親と一族の七光りのご自慢ですか? いいでしょう、ならわたしも知り合いの自慢をさせていただきます。わたしはあなたの一族より偉い王家の第一王子のフォースさまと知り合いなんです。王都の食料品店で一緒に買い物したこともありますし、荷物を持ってもらったこともあります。わたしが困ったときには助けてくれましたし、一緒に協力して困っていた人を助けたこともあります」
うそは言っていない。
「な、う、嘘を言うな! 王族の王子がお前みたいな生意気な女と仲良くするわけがないだろう! この俺でさえ社交パーティーの時に遠くから見ていることしか出来ないんだぞ!」
「あなたの場合は男性と話すのが嫌だからじゃありませんか? あなたが女性好きの浮気性で、自分以外の男性を毛嫌いしていることはうわさになっていますよ」
「な……⁉」
スクエアの顔が茹でたタコのように赤く染まっていく。
「あら、図星を突かれてお怒りになりましたか? それともいまさら自らの振る舞いを恥じておいでなのですか? どちらにしてももう遅いですよ、あなたのことはみなさんに知れ渡っていますから」
「この……! 黙って聞いていれば調子に乗りやがって!」
スクエアが早足でリズに近づいていく。このあとに起こるであろう事態を察したリズが急いで逃げようとするが、決して逃がすまいとしてスクエアが彼女の片手を握って捕まえた。
「お前みたいな女なんか腐るほどいるんだよ! このアマ!」
スクエアのもう片方の手が固く握りしめられて、その拳がリズへと振りかざされる。スクエアがリズの顔面へと拳を振り抜こうとして、リズがぎゅっと目をつむったとき……すぐそばで声がした。
「いけません、スクエア様」
フォースの声だった。はっとなったリズが目を開けて声のほうに顔を向けると、すぐそばにフォースがいて、振り抜こうとしていたスクエアの腕を握り止めていた。
「なにがあったのかは分かりませんが、暴力はいけません、スクエア様」
「離せクソジジイ! 使用人のくせにこの俺に説教してんじゃねェ!」
フォースが手を離す。しかしスクエアは離せと言っていたのにもかかわらず、今度は自分からフォースの首元の襟を掴んだ。




