84 言付け
「お迎えにあがりました、リーゼロッテ様」
「……ありがとうございます。今日もヴォクス家に戻るんですよね?」
「はい。明日の式の準備がありますので」
「……そう……ですよね……」
リズが乗り込み、馬車がヴォクス家までの帰路に就く。閉められた小窓を背にして、リズは努めて明るい声でフォースに話しかけていた。
「それでですね、みんなに明日のこと話したらすっごいびっくりしてました。今日招待状が届いてるかもしれないから、帰ったら見てみてって言っておきました」
「そうですか。みなさん来てくれると良いですね」
馬車の運転に注意しながらも、フォースはリズの話に相槌を返していく。せっかく話しかけてくれているのだから応えなければと感じているのだろう。
「みんなうらやましがってました。ヴォクス家の跡取りと結婚なんていいなぁとか、玉の輿おめでとうとか」
「みなさん良いかた達なのですね」
「はい。みんな良い人達なんです」
……前は不良の人もいたけど……。とリズは内心では思う。その不良学生もフランソワーズの一件でどこかに行ってしまい、いまクラスにいるのはリズの結婚を素直に祝ってくれる同級生達ばかりだった。
ただし、スクエアの浮気性については話してはいなかったが。不要にクラスメイト達を心配させたくないと思ったからだった。
「そういえば、シャーロットさんはあれからどうなったんですか?」
「シャーロット様でしたら、すでに恋人のかたとともに王都を離れました。お二人のご家族も、のちにお二人を追いかけて王都を発つようですよ」
「そうですか、良かったです。これでシャーロットさん達の心配はもうありませんね」
「……リーゼロッテ様……」
フォースは言おうかどうしようか少し迷った気配を漂わせて……結局リズへと言葉をかけた。
「実はシャーロット様から言付けを預かっております。リーゼロッテ様に伝えてほしいと」
「言付け……?」
「はい。『リーゼロッテさん。どうか悔いのない人生をお願いします。貴女がたに助けられた私が言えることではないかもしれませんが』とのことです」
「…………」
ありがとうというお礼でも、ごめんなさいという謝罪でもない。お礼なら昨日伝えたし、いま謝罪するくらいなら婚約者の立場を代わるべきだという思慮があったのだろう……それはもう一度婚約者になりたくはないし、なるつもりもないから、お礼も謝罪もいまはしないという判断かもしれない。
だからこその、その思いがあるからこその、この言付けだった。いまのシャーロットにできるのは、できたのは、この程度のことだったから。




