83 ハリボテの結婚式
夫人がヴォクス氏に文句を言った。
「友情に年齢は関係ありません。恋愛に年齢は関係ないとよく言われるように、友情もまた然りなのですよ」
「だからって足を踏むなよ。痛いじゃないか」
「それは貴方の一言が余計だったからです。それはともかく」
話を戻すように夫人がリズを見る。リズは緊張したように唾を飲み込んだ……軽口を言ってはいても、やはり人生の一大イベントなのだ、緊張しないほうが困難というものだろう。
「スクエアとリズさんの結婚式は、明日の昼間ということになりました」
「明日、ですか……っ」
「はい。明日であれば貴女の通う学園もお休みですし、貴女のお友達を招待出来ると思いまして」
「……そう、ですか……そうですよね……」
あまりにも早いと思ったが、そうしなければスクエアさんのためにならないとエリザベスさん達は判断したのだろうと思い直した。
「ちなみに、リズさんのご家族はこの王都にいらっしゃるのですか? ご家族にも招待状を送りたいのですが」
「……いえ……家族は故郷にいるので……王都までは馬車で急いでも数日はかかります……」
「転移魔法を使える方は? もしいれば、通信魔法で伝えて来てもらうことも出来るのでは?」
「父も母も魔法はあまり得意ではないので……難しいと思います……」
「そうですか……。それでも一応、うちの使用人から使いを出したいと思いますので、ご家族がいる場所を教えてくれませんか? もしかしたら、急げば間に合うかもしれませんので」
「そう、ですね、分かりました……わたしの故郷は……」
リズはこの異世界における故郷の地名を伝えながら、もう一方の気持ちとしては複雑な感情を抱いていた。人生の一大イベントで晴れ舞台でもある結婚式に父と母を呼ぶ……両親に会えるのは素直にうれしいが、いきなり結婚すると言ったら驚かれることは間違いなかった。
なによりも、自分が好きでもない相手との結婚式に、両親を呼んでも良いのかと。その相手すら、もはや自分のことを好きでもなく他の女性達に浮気し続けている。
この結婚式は、もはや形だけを、表面だけを取り繕ったハリボテの結婚式に他ならなかった。
「式については後でスクエアにも伝えておきます。それでは朝食を食べましょうか」
「はい……いただきます……」
そしてリズ達は朝食を食べ始めた。
○
放課後。いつものように学園の正門前にフォースが御者を務める馬車が待っていた。
以前までであれば、恥ずかしくて乗る気にもなれなかったリズだったが、毎日のようにそうしていたからか、いつしか慣れてしまっていた。明日に結婚式が控えていて、頭がそちらに引っ張られているのも一因ではあるが。




