82 ……いままでずっと
「リズさんがここに初めて来たときにフランソワーズから意地悪をされたそうですね」
「あ、はい、紅茶のなかに唐辛子を入れられてしまって、それを飲むように強制されて……」
「貴女が気づいているかは分かりませんが、そのときにもフォース様は貴女を助けていたのですよ」
「え……?」
「貴女が紅茶を飲まないように全員に話を始めて、またそのあとには紅茶の入ったティーカップを皆に悟られないように壊して、火傷の治療の名目で貴女をその場から離れさせたのです」
「あ……」
リズはそのときのことを思い出す。運が良かったとは思ってはいた……しかし、それがフォースの手助けだとは気づいていなかった。
「リリアンナの奇襲に関しても、実はそれが起こるかもしれないと私に進言してきたのがフォース様なのです。最初の婚約者同士の会合で、リリアンナが貴女のことを狩人のような瞳で見つめていたことに気づいて」
「フォースさんが……」
「もしも本当に奇襲があった場合にリリアンナに対抗できるのは自分だとフォース様は仰ったので、それならばと私はフォース様を貴女の送り迎え役として任命したのです。無論、それには護衛の意味も含めて」
「…………」
「それらのこと、やっぱり気付いていなかったようですね。フォース様は別に気付かれなくても良いと思っていたようですが」
……いままでずっとフォースさんが守ってくれていた……? ……わたしに気づかれなくても構わずに……?
夫人がリズに告げた。
「……いつの間にか長く話してしまっていましたね……明日、正式に結婚式の日取りを伝えます、今日はもう寝ましょう……」
「……そう……ですね……」
そうして二人の夜話は終わりを告げた。
けれど結局、いろいろと考えや思いが巡ってしまって、リズが眠りに就けたのは約一時間後であったが。
○
翌日、ダイニングルームでの朝食の場にて。リズや夫人、ヴォクス氏の前に朝食の品々が並び終わって、これから食べ始めようという前に夫人がリズに言った。
「リズさん。朝食の前に大事なお話があります」
「結婚式の話ですね?」
「はい。貴女に学園の放課後にうちにお越しいただいて話そうかとも思いましたが……やはり早いほうが良いかと思いまして」
「でも寝る前には話してくれませんでしたけどね」
「それはそれ、これはこれです」
二人はふふと同時に微笑みをこぼす。それを見たヴォクス氏が目を少し丸くしながら口を挟んだ。
「なんだなんだ? 二人だけ親睦を深めて。リーゼロッテさんを愛称で呼んでいるし」
「貴方には関係のないことです。いわゆる女同士の友情というものですよ」
「お前がそんなことを言うとはなぁ。もういい年なのにあいたぁ⁉」
テーブルの下で夫人がヴォクス氏の足を踏みつけていた。




