81 くすくす
「しかし……申し訳ありません、リーゼロッテ様。我がヴォクス家にも体面や体裁を守る必要があるのです。その場の勢いとはいえスクエアが正式な婚約者として定めた以上、そのうちの誰かとは結婚していただかなければ、ヴォクス家の信用と沽券に関わることになります」
「だから……最後に残ったわたしが……」
「…………、……本当に申し訳ありません……シャーロットさんと貴女の二人が残った時点で、どちらかは結婚しなければならない定めとなっていたのです……私は、貴女達二人のうちから、リーゼロッテ様を……。……本当にごめんなさい……」
それは夫人の心からの言葉だった。謝罪だった。
それが分かったからこそ、分かることができたからこそ、リズはこう答えたのだった。
「……もう謝らないでください、ヴォクス夫人。夕食の前にも言いましたけど、わたしなら平気ですから」
「リーゼロッテ様……」
「それにこうも考えられるじゃないですか。わたしがスクエアさんと結婚すれば、夫人やヴォクスさんとは義理の親子になれるって。毎日ご飯を一緒に食べられるし、お話も自由にできるし、ときどきはこうして一緒に仲良く眠ることもできる。この家はわたしの二つ目の大切な家族になるんです」
「……ありがとう……そう言っていただけると、心が軽くなります……」
リズは続けて言う。
「わたしこそ、ありがとうございます。こんな普通の女の子のわたしなんかを頼ってくれて。あ、そうそう、せっかく家族になるんですし、これからは名前で呼び合いませんか?」
「名前で……?」
「はい。わたしは夫人のことをエリザベスさんって呼びたいですし、夫人もわたしのことをリズって呼んでください」
「それは、貴女の愛称の……」
「はい、昨日も言いましたけど、友達や家族にはそう呼ばれているんです。だから、そう呼んでください」
昨日は夫人に誤解されて、結局フルネーム呼びになってしまった。しかしいまはリズのほうから、その愛称で呼んでほしいと提案しているのだ。
夫人に断る理由などなかった。
「ふふ……分かりました、リズさん」
「はい、エリザベスさん」
背中合わせに横になりながら、二人はくすくすと楽しそうに笑い合っていた。リズより二回りも年上の夫人だったが、このときはまるで少女のような心持ちになっていた。
ひとしきり笑い終わって、思い出したように夫人がリズに言う。
「そういえば、フォース様が助けてくれたと仰いましたよね?」
「はい。本当に頼りになるかたですよね。さすが王子さまって感じで。……世間知らずなところはありますけど……」
食料品店での出来事を思い出しながらリズは答える。あのときは本当に恥ずかしかったと思いながら。




