79 ……フォースさんがいてくれたから
ディナーが終わり、風呂や歯磨きなども済ませて、リズは夫人の部屋のベッドで夫人とともに布団のなかにいた。しかし魔法具の明かりを消して、しばらくはじっと目をつむっていたが、リズはなかなか寝つけていなかった。
(……眠れないな……)
虫の声も聞こえない静かな夜。眠ろうと努力すればするほど、頭に浮かんでくるのは婚約と結婚式のこと、いままでの……この一週間で起きた激動の出来事……。
(……いつも通りの一週間が始まると思ってたのにな……)
そもそもの始まりはなんだったのかと思い返してみる……そう、それは前世の記憶を思い出したことが、すべての始まりだった。
(この、前世の記憶を思い出したことから、全部始まったんだよね……それから女神さまと会ったことや、話を聞いたことを思い出して……)
それまでイメージしていた女神像とは、全然違った女神だった。フランクで気さくで、まるで学園の友達のような女神さま。もしも身近にいたら、普通に仲良くなれそうな女神さまだった。
眠れない頭でそんなことをとりとめもなく考えていると、不意に隣から小さな声がかけられた。横向きの体勢でいるリズと背中合わせにしている夫人の声だった。
「……リーゼロッテ様……もう寝てしまわれましたか……?」
「……ヴォクス夫人……?」
夫人のほうに身体を向けるためにリズが寝返りを打とうとするが、夫人はそれを制した。
「……このままでお聞きください……ただの寝物語のような、眠気が来るまでの退屈しのぎのようなものですから……」
「…………」
夫人にそう言われたとあっては、リズはそのまま背を向けて話を聞くことにした。明日は結婚式についてのことを説明されるのだ、もしかしたらいまの段階でなにかしらを言われるかもしれなかった。
「……正直に白状致しますと、スクエアが貴女を連れてきたとき、私は真っ先に婚約者の座から脱落するだろうなと思っていました」
「……え……?」
「たとえ美貌を持っていたとしても、貴女はまだうら若き女学生です。既に三人いた婚約者のうち、フランソワーズの策略か、リリアンナの奇襲か、あるいは純粋にシャーロットさんに正妻の座を譲ってしまうか……いずれかの可能性で貴女は早々に脱落して、学園からもこの王都からも離れていって二度と戻ってくることはないと、そう思っていたのです」
「…………」
その可能性は充分にあった。そうなってしまう未来は極めて高かった。
しかしいま、現にこうしてリズは残っている。残ってしまっている。その理由は考えるまでもなく分かっていた。
「……フォースさんが助けてくれたおかげです……フランソワーズさんのときも、リリアンナさんのときも、シャーロットさんのときも……フォースさんがいてくれたから、わたしはいままで助かってこれたんです……」




