78 幸せになってほしい
ヴォクス家の屋敷に戻ったあと、フォースとリズは夫人とヴォクス氏にシャーロットへの対応を報告した。夫人達は驚いていたが、同時に安堵してもいたようだった。
「良かった……これでシャーロットさんは恋人と一緒に暮らせますね。ありがとうございます」
夫人はそう礼を述べて、ヴォクス氏も同意するように大きくうなずく。しかし二人はすぐに、リズがいることを思い出して気まずく口を閉ざしてしまった。
フォースもまた、なにも言わないままでいる。リズは彼らの思っていることを察してはいたが、両手を胸の前で合わせて敢えて明るく振る舞った。
「ほんとう、良かったですよね。好きな人とこれからずっと一緒にいられるんだから。シャーロットさんには幸せになってほしいですから。めでたしめでたしです」
「「…………」」「……リーゼロッテ様……」
沈黙を破るように夫人が声をかけようとするが、その声に被せてリズは言葉を続ける。
「だからわたしも幸せにならなくちゃ。スクエアさんとの結婚式はいつになるんですか? 絶対に、めいっぱい幸せになってやるんだから」
「…………」「「……っ」」
夫人とヴォクス氏が目を見開く。まさかリズ自身の口からその言葉を聞くとは思っていなかったのだろう。
夫人がリズに尋ねる。
「……私が聞くのもあれですが……本当によろしいのですか……?」
「なにがですか? 良いに決まってるじゃないですか。だってヴォクス家って言ったらすっごいお金も権力も持ってるんですよね。だったらお望み通り結婚してやって、これからは私の好き勝手にやりたいことをやりまくってやりますよっ」
「「「…………」」」
平時であれば、このような発言をした者は不敬罪に問われたり、陰謀を企んでいるとして警察に通報されてもおかしくないだろう。しかしこの場にいる誰も、そのようなことはしなかったし思うことすらもなかった。
彼女は無理に明るく振る舞っているだけで。もしこれで婚約を破棄されるなら、むしろそれこそラッキーだと思っているのだろう。夫人もヴォクス氏もフォースも、彼女のそんな気持ちを分かってしまったから。
だから。夫人も慰めや励ましの言葉はかけずに。敢えてこう言った。
「スクエアとの婚約と結婚を喜んでいただけているようで、私としてもとても喜ばしいです。つきましては結婚式の日取りですが……今夜、夫と相談して、明朝にはお知らせしたいと思っています」
「ありがとうございます。できれば早くお願いしますね」
「はい。貴女がそう望むのなら」
「わーいっ」
まるで童心に戻ったようにはしゃぐリズ。夫人達はそれを真面目な顔で見つめている。
ややあって夫人が再び口を開いた。
「では、リーゼロッテ様は私達の新たな家族になることですし、今夜も一緒にディナーを食べましょうか」
「いいんですかっ」
「もちろん。それと是非宿泊もしてください。今夜は来客用寝室ではなく、私の部屋で一緒に寝ましょう。パジャマも私が持っているなかで好きなものを着ていいですよ、買ったは良いものの結局着ずにしまいっぱなしになっているものがたくさんありますから」
「ありがとうございますっ」
ヴォクス氏がわははと笑い声を上げた。
「若い頃に買ったものなんか、エリザベスはもう着れないだろうからな。ダイエットしているみたいだが、それでも中々苦労しているようだし……おっと」
ヴォクス氏が慌てて口に手を当てて塞ぐ。夫人がぎろりと獅子のような目をヴォクス氏に向けていた。
リズが苦笑いをにじませていた。
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