77 近日中には
シャーロットの別荘からの帰りの馬車に揺られながら、リズは小窓の向こうにいるフォースに話しかけていた。
「フォースさん……ありがとうございます。シャーロットさんのこと」
「……私は私にできることをしただけです」
「それでも、です。わたし一人だけだったら、シャーロットさんを助けることはできなかったと思いますから」
「…………」
一拍の間を置いてから、フォースがリズに言った。
「……リーゼロッテ様。シャーロット様が婚約者ではなくなった以上、リーゼロッテ様の身はこれから大変になると思われます」
「……はい……分かっているつもりです。結婚式、ですよね……わたしとスクエアさんの……」
「……はい。具体的な日取りはまだヴォクス様もエリザベス様も決めてはおられないようですが、おそらく近日中には式が開かれるはずです」
「…………」
「ヴォクス家の跡取りであるスクエア様の婚礼ということのため、この式に関してはヴォクス様もエリザベス様も中止にはできないでしょう。無論、リーゼロッテ様が婚約者から下りることも認めないと思われます」
「……つまり、さっきフォースさんがシャーロットさんに言い渡したみたいに、わたしの婚約を無効にすることはできないということですよね……」
「…………。リーゼロッテ様。私は……」
なにかを言おうとしたフォースの言葉を遮って、リズは努めて明るい調子で言った。窓外の星明かりを見上げるように、希望を失ってはいないように。
「いいんです。わたしのことはべつに。むしろラッキーって感じ? だってそうでしょ? この国でも有数のお金持ちの公爵家の跡取り息子と結婚できるんだから、玉の輿きゃっほーいって感じです。結婚したら新婚旅行は外国に行って、帰ってきたら毎日おいしいもの食べて、服もブランド物をたくさん買って、高いネックレスとか宝石とか、好きなものも好きなだけ買って……お父さんとお母さんにも楽をさせてあげて……それから……」
指折り数え上げながら言っていたリズだったが、その声は次第に小さくなっていき、最後には黙り込んでしまっていた。
そして小窓の向こうにいるフォースには絶対に気づかれないように、静かにその場で膝を抱えると、声も出さずに涙の跡を膝に染み込ませていた。
「…………」
フォースはなにも言わずに馬車を走らせ続けていた。屋敷に戻るまでの時間をできるだけ長引かせられるように、ゆっくりと馬を走らせながら。
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