74 ……フォースさんにしかできないこと
「シャーロット。もう戻らないと。使用人のおばさんが心配してしまうよ」
「……分かっています。分かっているんです。でも、もう少し、あと少しだけ、一緒にいさせてください。貴方とこうしていられるのも、もう出来ないかもしれないんですから」
「シャーロット……」
二人は再び抱き合う。離れなければいけないのに、しかし心では離れたくないと思っている……その切ない気持ちが分かってしまう光景だった。
「「…………」」
そんな二人を、リズとフォースは黙って見つめていた。
(……やっぱり……シャーロットさんには幸せになってほしい……)
リズは思う。しかし、いまこの場において、あの二人を見て……いまだなおリズには起死回生のアイデアは浮かんではくれなかった。
もう時間はないのに。もたもたしていたら、いずれ結婚式が執りおこなわれてしまうのに……。
フォースも同じことを思ったのだろう、彼がリズの耳元で小声で尋ねる。
「……リーゼロッテ様、策は浮かびましたか……?」
「…………」
リズは一瞬沈黙したあと、意を決した顔でフォースを見た。
「フォースさん、お願いがあります。わたしにはできないこと……フォースさんにしかできないことです」
「私にしかできないこと……?」
「耳を貸してください」
フォースがリズに耳を寄せて、彼女はその耳元に口と手を近づけてひそひそと声を潜めてなにかを伝えた。
耳元に口を寄せたのも声を潜めたのも、万が一にもシャーロット達にこの『策』を聞かれないようにするためだった。もしも聞かれてしまえば、シャーロット達にその『策』を心底から信じさせることができなくなる。
この『策』には彼女達の本気が必要不可欠なのだから。演技でも表面的でもない、仮に記録魔法で第三者が見たときにその第三者すら信じさせるほどの、『本気』と『本心』の言葉と行動が必要なのだから。
その『策』を理解したフォースがリズを見返す。真面目な顔でうなずきを返した。
「分かりました。私に任せてください。絶対に成功させてみせます」
そして彼が意を決して木立の陰から一歩踏み出て、ざっと足音を立ててシャーロットと恋人の前へと姿を現した。
「こんなところにいらしたのですか、シャーロット様」
「「っ⁉」」
二人は寄り添いながら驚いた顔をフォースに向けた。フォースに続いてリズも木立の陰から出て、彼の隣に並び立つ。
シャーロットが驚きと困惑の声をこぼした。
「貴方達は……確かリーゼロッテさんと、ヴォクス家の御者さん……⁉」
「はい。ご記憶に留めていただけていたようで、誠に感謝いたします」




