68 月光と星明かりに照らされるそこに、
スクエアと話している相手の声は若い女性のものだった。リズは花壇の隅から見つからないようにそっと顔を出して、様子を伺ってみる。
男性のほうはやはりスクエアだった。女性のほうは……メイド服を着ていることから、どうやらこの屋敷のメイドの一人らしい。
(自分んちのメイドさんにも……)
スクエアは自家のメイドにも手を出しているのだ。
「いまここには僕達しかいない。こんな深夜にひっそりと抜け出して、見つからないように会うことくらいしか出来ないんだ。さあその可憐で可愛い顔を、もう一度僕に向けてくれないかい?」
「……いけません、スクエア様……だって私はまだこのお屋敷に来たばかりのメイドで……」
「そんなこと関係ないさ。たとえ短い時間でも愛は充分に育まれるんだから」
「でも、スクエア様には婚約者様がいらっしゃいますし……これ以上婚約者を増やさないようにとも……」
「婚約者? ああ、シャーロットとあの田舎娘のことかい?」
やれやれと、スクエアが溜め息を吐きながら肩をすくめた。
(田舎娘って、わたしのことだよね……)
リズがそう思うなか、スクエアは残念そうな文句を続ける。
「君にだけ打ち明けるけど、あの二人にはがっかりしてしまったよ。シャーロットは僕がせっかく会いに行って話しかけても、ずっと本を読んでばかりだし。リーゼノッテなんか清楚さなんか微塵もない、はしたない食べ方でものを食べるんだからね。あんなテーブルマナーもなっていない田舎娘だとは思わなかったよ」
「あの……リーゼロッテ様では……?」
「ああ、そうそう、リーゼロッテだったね。まったく、僕が覚えられないようなややこしい名前なんかしてるんじゃないよってね」
スクエアは素でリズの名前を間違えたらしい。すでにスクエアはリズのことを、名前を覚えている価値もないほどに幻滅し、飽きている証左だった。
「だから、いまの僕には君しかいないのさ。他の婚約者なんて関係ない。僕には君しか見えてないんだから」
「だ、めです……スクエア様、こんなところで……誰かに見られたら……」
「大丈夫。誰も来ないよ。さあ……」
スクエアがメイドに顔を近づけていく。
(……っ⁉)
リズはそっと伺っていた顔を引っ込めて、花壇の裏で自分の両耳を両手で塞いで、ぎゅっと目をつぶった。
なにも見たくない。なにも聞きたくない。なにも知りたくない!
(……っ!)
それからどれくらいの時間が経ったのか、リズには分からない。長いようにも感じたし、実際にはもっと短かったかもしれない。
数十分かもしれないし数秒かもしれない……そんな体感的な時間が流れたあと……がさりと、誰かが近づいてくる気配がした。
塞いでいるはずの耳すらも通して聞こえてくる、小さな足音。スクエア達に気づかれてしまったのかと思ってリズがばっと目を開けたとき……。
「リーゼロッテ様……?」
リズの眼前、月光と星明かりに照らされるそこに、御者姿のフォースが立っていた。彼は不思議そうな顔つきで彼女のことを見下ろしていた。




