67 綺麗な庭園
廊下の壁には、小型の魔法具の照明が点々と灯されていた。蝋燭の形をしているのだが、火ではなく暖色の光が灯されていて、たとえ紙を近付けたり落下したとしても燃え移る心配はなかった。
リズは足元に気をつけながら廊下を歩いていく。
(確か、こっちが庭園に続いているって、フォースさんが言っていた気が……)
あの寝室に向かう途中で、フォースが簡潔に言っていたことを思い出しながら、リズは廊下の角を曲がる。あの寝室の窓から見えたのだから、庭園までの入口はすぐに見えてくると思ったのだが……。
とても広い屋敷だった。窓から見えた庭園に向かうだけでも、少し時間がかかってしまうくらいに。とはいえ、ただ単にリズがこの屋敷に慣れていなく、そのせいで時間がかかっただけかもしれないが。
(あ……あそこかな……?)
やがて、廊下の先に星と月明かりが照らす場所が見えてくる。廊下に続いてはいるが天井はなく、地面にはサンダルやじょうろ、バケツや水やりホースなどが置いてあった。
(青いホースがある……フォースさんじゃないほうのホース、ふふ……)
ただのだじゃれだとは分かっていたが、それでもリズはつい口元が綻んでしまった。もしかしたらこれらの道具をフォースもまた使って、庭園に水やりをしているのかもしれないとも思って。
リズはそれまで履いていた室内スリッパからサンダルに履き替えて、庭園へと歩き出していく。前世で住んでいた国の文化の影響か、前世の記憶を取り戻してからは室内ではなるべく靴ではなくスリッパを履くようにしていた。
(やっぱり綺麗な庭園だな……昼間来れば、咲いた花が見れるんだろうな)
広い庭園内を散策しながらリズはそう思った。もし叶うのなら、いずれは昼間のこの庭園も見てみたいなと。婚約者問題でいろいろと大変ではあったが、いまこのときだけは、それらを忘れていられた。
そしてある程度歩いたとき、リズの視界の先に屋根がついた場所が見えてくる。東洋で東屋、西洋ではガゼボと呼ばれている休憩場所だった。
(すごいなぁ、こんな場所も建てているん……だ……?)
夜空の明かりのなか遠目に見ただけではあるが、その東屋に誰かの姿が見えた。一人ではなく二人であり、そのうちの一人は……。
(スクエアさん……⁉)
スクエアの姿を認識した瞬間、リズはとっさにそばの花壇の陰に身を屈めて隠れてしまった。呼吸すら潜ませるようにリズが口に手を当てたとき、東屋のほうからスクエアの声が聞こえてくる。一緒にいる者に言っている優しい声だった。
「どうかしたのかい?」
「あ、いえ、いま誰かがいたような気がして……」
「そんなはずはないさ。いまこの時間は父さんも母さんも眠っているし、夜勤の使用人は宿直室にいる。僕の弟だって留学しているからいるはずないしね」




