66 散歩
夫人が改めてリズに向く。
『リーゼロッテ様。私は貴女とフォース様を信じています。シャーロットさんのことに関して、時間が残り少ないことは確かですが、いますぐ返答してほしいとは言いません。しかしどうか、ご一考ください』
『『…………』』
……結局、リズはその場では夫人の依頼に返答することができなかった。
そして、
『話がだいぶ逸れてしまいましたが、本日は我が屋敷にお泊まりください。先ほども申しましたが、リリアンナの処遇を明朝に一早く伝える為にも』
『……はい……ありがとうございます……』
半ばなし崩し的に、リズはヴォクス家に宿泊することになった。
(……シャーロットさん……婚約を強制されてしまった人……わたしみたいに……でも、わたしとは違う……)
シャーロットには、将来を誓い合った恋人がいる。もしスクエアが婚約を強制しなければ、その恋人と結ばれて幸せに暮らせたのだろう。
来客用寝室のベッドに横たわりながら、リズは思っていく。
(助けたい……好きな人と結ばれてほしい……でも、どうすれば……?)
フランソワーズとリリアンナのときは、リズは狙われる側だった。しかし今度は違う。今度はリズ自身が、シャーロットを婚約者の座から引きずり下ろす側なのだ。
しかし、それは同時にリズの身を危うくすることでもあるかもしれない。失敗すれば言わずもがな、たとえ成功したとしても、リズに待っているのは、最後の婚約者に残ったという事実とその後の結婚だった。
(……どう……すれ、ば……?)
この状況を打開できるような会心のアイデアを導きだそうとしているうちに、いつしかリズはうとうとと眠りに落ちてしまっていた……。
○
数時間の眠りから目を覚ましたとき、室内は暗闇に包まれていた。魔法具の照明が、室内に一定時間動くものがないことから自動で消灯したらしい。
(…………)
なんとはなしに、リズは窓辺へと寄ってカーテンを少し開けて覗いてみる。魔法具の照明は点かずに暗いままだった……消灯は自動化されていたが、点灯は手動もしくは音声や魔力認証に設定されているらしい。
窓の外には、屋敷の広い庭園があった。夜空を彩る星々や月の明かりが、花壇の上で花弁を閉じている花々を照らし出している。
いずれも閉じた花だったのだが、リズは綺麗だと思った。夜の星と月に照らされるその光景が、幻想的で素敵だと思った。
(……少し、散歩してみようかな……)
もっと間近で庭園を、その花々を見たいと思ったのだ。リズはドアを開けて廊下に出ると、ここまで来たときの道のりを思い出しながら、庭園に続いていると予想される道筋を歩いていく。




