64 残った二人の婚約者
残った二人の婚約者……シャーロットとリズの二人。いままでの前例からすれば、シャーロットもまた自分を狙ってくるのではとリズが思うのも無理はなかった。
しかし少しの沈黙があってから、夫人が言った言葉は。
『いえ、シャーロットさんが貴女を貶める可能性はほぼないと言えるでしょう』
『え……?』
『彼女は一言で言うなら、まさに『深窓のご令嬢』です。戦える力はなく、誰かを貶める悪辣さもない……彼女にあるのは礼節と、慈母のような優しさです』
『…………』
『しかし、だからこそ、シャーロットさんがスクエアの婚約者から下りることは……いえ、下ろすことが困難を極めています』
『それって、まるで……』
……まるでシャーロットさんをスクエアさんの婚約者からやめさせたがっているような……?
『フォース様には私達のことを信じてほしいと頼みましたが、リーゼロッテ様、貴女にも頼みたいことがございます』
『え……頼みたいこと……?』
『シャーロットさんを、スクエアの婚約者から引きずり下ろしてください』
『⁉』
思いもよらない言葉にリズは目を見開いて驚愕してしまう。そして夫人は続けて、
『実はシャーロットさんには、スクエアよりもずっと前に、将来を誓い合った恋人がいるのです。しかしスクエアはそれを知らずに婚約を取り決めてしまい、知ったあとも構わずに婚約関係を続行しました』
『そんな……そんなことって……』
『シャーロットさんの恋人は庶民のかたであり、彼女のご両親も賛成していたようです。しかしスクエアが裏から手を回したようで、シャーロットさんのご両親に婚約を無理矢理納得させてしまったみたいなのです』
『そんな……シャーロットさんには恋人がいるのに……』
ヴォクス夫人は首を横に振った。
『権力は、ときに暴力や策略よりも凶悪です。スクエアは、シャーロットさんと恋人に諦めるように言いました。シャーロットさんには、諦めなければ恋人とその家族を追放すると言い、恋人には、これがシャーロットさんの幸福な未来の為だと言って。あるいは恋人に対しては暴力も行使したかもしれませんが』
『……っ』
『……これらはヴォクス家専属の探偵が調べ上げたことで、二人は首を縦に振ることしかできなかったのです』
『……そんな……』
『……まるで小説や劇にあるような話ですよね。この場合の悪役はヴォクス家自身ということになりますが……作品のなかでは駆け落ちするというのが定石でしょうが、シャーロットさん達がそうすれば、スクエアが二人の家族や親戚を吊し上げるでしょう。またなんとしてでも彼女を連れ戻し、恋人の命も脅かすかもしれません』




