62 王族や王子としての自覚
夫人が言葉を続ける。
「スクエアは宣言通り父親に、つまり私の夫に、ホースをクビにするように言いましたが、夫はもう少し様子を見てから判断するべきだと答えました。そしてスクエアがいなくなったあとで、ホースのそのときのことを使用人達から話を聞き、予想通りスクエアが過剰に反感を持っただけだと結論付けました」
リズが先ほど尋ねた質問をもう一度聞いた。
「スクエアさんに事情を伝えるのが遅れてしまったというのは分かりましたが……そのあとででも話をすることはできたと思います……なんでしなかったんですか?」
もしも事情を話していたら、現状とは違った状況になっていたかもしれない。
しかしヴォクス夫人の返答は。
「……言葉が足りませんでしたね、申し訳ありません……先程は私達の対応が間に合わなかったと言いましたが、より正確には、スクエアがホースをクビにするようにと言った一件の翌日に、ホースの正体について説明はしたのです」
「え……? じゃあ、なんで……?」
「……信じなかったのです」
「…………」
夫人は気落ちしたように続けて言う。
「スクエアは、いくら何でも王族の王子が御者の仕事をするわけがない、今日はエイプリルフールじゃありませんよ、と笑って流してしまったのです。私達がなおも何とか納得させようとしても、僕はそんな簡単な嘘に引っ掛かるほど愚かじゃありません、じゃあこれから友人と会う約束があるのでそれでは、と言って出ていってしまいました」
夫人は溜め息を吐く。確かに、にわかには信じがたい話かもしれないが。
「……その後も、スクエアと会う機会があったときに説明を試みたのですが、やはりあの子は聞く耳を持ちませんでした。しまいには私達にもうんざりしたようで、ムッとしたように、その話に関して無視を決め込まれてしまったのです。あの様子では、たとえフォース様が素顔を晒したとしても信じたかどうか……」
「そんな……」
「……そして、夫はスクエアに説明することを諦めたように呟いたのです。『息子には、一度痛い目を見させた方が良いのかもしれない』と」
「「…………」」
リズだけでなく、当事者であるフォースもまた押し黙ってしまう。夫人自身も諦めと自嘲を込めたような表情と声音で言った。
「おそらくフォース様のこと以外の、普段のスクエアの我が儘な振る舞いも見てきたからでしょう。具体的に夫が何を待っているのかまでは分かりません。聞いても教えてはくれませんでした。私に分かっているのは、夫は、我が儘な振る舞いをする息子が手痛いしっぺ返しを受けることを待っているようです」
「……自分の息子、なんですよね……?」
リズの問いに、夫人は重くうなずいた。
「はい。正真正銘、私達の子です」
自分達の子供だからこそ。
「これは私の予想に過ぎませんが、もしかしたら、夫は、痛い目を見たスクエアが反省して改心してくれることを期待しているのかもしれません。道行く女性にふらふらと惑わされるのではなく、ヴォクス家の一人としての自覚と使命に目覚めてくれることを」
「「…………」」
「しかし、とはいえ、私としてはスクエア自身やヴォクス家自体に致命的な処罰が下されては元も子もないと思って、本当に危険過ぎる言動や行動はしないように注意はしているのですが……」
……フォースさんにあんなこと言った時点で、もうけっこうヤバいと思うけど……。
そう思いながらリズはフォースをちらりと見る。彼は重々しい顔つきで夫人を見つめていた。
おそらくは、自分の発言や行動次第では、本当にスクエアやヴォクス家を破滅させてしまう……破滅できてしまうと重く受け止めたのだろう。だからこそ、自分自身こそ、厳格に自制と自省、王族や王子としての自覚を持たなければならないと。




