6 エリザベス
びくりと一瞬だけリズが身を震わせるが、それには気づくこともなく、馬がいななき声を出して馬車が停止する。御者が御者台から降りて彼女に小さくお辞儀をした。
「少し遅れてしまい申し訳ありません。リーゼロッテさまがいらっしゃる前に到着する予定だったのですが……」
「い、いえ、わたしもいま来たところですから……」
「ご配慮のお言葉、誠にありがとうございます」
リズとしてはべつに配慮したわけではなく、本当にいま来たところだったのだが……御者は馬車のドアを開けて彼女を招いた。
「それでは、お入りください。皆様お待ちかねでございます」
「みなさま……?」
「はい。リーゼロッテ様以外の、スクエア様の三人の婚約者様達でございます」
「……っ⁉」
リズは目を見開いた。つまりこれからすることは、馬車に乗って他の婚約者達と顔合わせをするということだった。場所はおそらく、いや間違いなくスクエアの自宅屋敷の一室だろう。
この馬車に乗ったら、もう引き返すことはできない……瞬間的にリズは躊躇してしまったが……そのとき馬車のなかから顔だけ出して彼女に声をかける者がいた。
「早くお入りください、リーゼロッテさん」
「あ、あなたは……」
それは朝に屋敷のダイニングで見た、スクエアの母親だった。気難しい顔つきをしていて、拒否の言葉など絶対に認めないというような雰囲気を醸し出していた。
元より、学園の教頭から釘を刺されているのだ。リズには拒否権はなかった。リズが拒否することは、彼女と学園の立場を窮地に陥らせることになってしまうのだから。
「…………」
リズは無言で馬車へと向かい、気まずい顔でスクエア母の対面側に腰を下ろす。リズがリラックスする余裕もないまま、御者によってドアが閉められて、そして馬車が再び走り出した。
「そういえば自己紹介がまだでしたね、私はエリザベスといいます」
リズの対面に座るスクエア母がそう名乗る。とはいえ、リズと親睦を深めようというわけではないことは、その鋭い目つきを見れば分かった。
「スクエアの一目惚れ体質と女好きには困ったものです。下手をすれば、これからも増えてしまうかもしれません」
「…………」
リズはなんと答えたら良いか分からなかった。下手なことを言えば、逆に相手を怒らせてしまうかもしれないからだ。
しかしエリザベスはリズの返答は最初から期待していなかったようで、続けて文句を述べていく。
「まあ、もうこのような身勝手な婚約者の増加をさせるつもりはありませんが。すでにスクエアには見張りをつけて、これ以上の軽率な行動をしようとしたら取り押さえるように言っていますから」




