59 再び屋敷を訪れる
フォースが改めてリズに向いた。
「……リーゼロッテ様、先ほどの質問への返答ですが……」
彼が改めて言おうとしたとき、今度は道の向こうから仕事終わりと思われる数人の男達が歩いてきた。すでに飲み屋で飲んでできあがっているらしく、通りに響くほど声を大きくしていた。
その男達に気づいて、フォースがリズに言う。先の問いへの返答ではなく、通行人を誤魔化すための言葉を。
「とりあえず、リリアンナ様を連れてこの場を移動しましょう。酔っ払ってしまった者を介抱するていで」
「……はい……そうですね……」
さっきしたのと同じように、フォースがリリアンナの腕を肩に回して、リズが彼女の身体を支えるようにして、二人は移動していく。はた目にはフォースが言うように、酔っ払った者を介抱しながら連れているようにしか見えなかった。フォースは器用に手綱も持っていて、馬はおとなしくついてきていた。
そうしてある程度移動した先で、フォースの発した信号を探知した二台の馬車が二人のそばへと近寄ってきた。降りてきたヴォクス家の使用人に、フォースはリリアンナを引き渡す。
リリアンナが後ろの馬車に乗せられて……使用人の対応の元、リズとフォースも前方の馬車に乗り込んでいく。馬車のなかには二人だけではなく、ヴォクス夫人が手配した使用人と回復魔法士も乗っていた。
……結局、リズはフォースからの返答を聞くタイミングを逸してしまった……。
○
ヴォクス家に引き返す形で、リズとフォースは再び屋敷を訪れる。リリアンナはいまだに気絶したまま担架に乗せられて別室に運ばれていき、リズ達はというとヴォクス夫人の私室へと案内されていた。
「こんばんは。さっき別れたはずなのに、またこうして訪れていただいたのを見ると、少し不思議な気分になりますね」
「…………」
ヴォクス夫人は苦笑ぎみにそう言ったが、リズは無言で聞いているだけだった。夫人の言葉が気に障ったわけではない……フォースからの返答が聞けなかったことが尾を引いているのだ。
しかしリズのその様子に、夫人は別の勘違いをしたようだった。
「……リリアンナから襲撃を受けて、怖い思いをしたのです。すぐに明るく元気な様子を見せろというほうが、無茶な話ですよね」
「……あの……」
そこでようやくリズは口を開く。ここには雑談をしに来たわけではなく、説明してもらわなければならないことがあるからだ。
「……教えてくれませんか? どうしてフォースさん……王子さまが、ヴォクス家の御者をしているんですか?」
「……そうでしたね、貴女に知られた以上、貴女にも説明しておかなければ」
ソファに腰かける夫人が一度フォースに目を向ける。
「その様子では、いまだにホースから説明されていないようですし」
「……お手を煩わせてしまい、申し訳ありません。説明するタイミングがなかなか巡ってきませんでしたので……」
「……まあよいでしょう。ホースだけからではなく、私からも説明したほうが説得力があるでしょうし」




