58 通信
ウィンドウにはヴォクス夫人の名前、『エリザベス=ヴォクス』と表記されていた。フォースがそのウィンドウに手をかざして、夫人の声が聞こえてくる。
『随分と遅いようですが、リーゼロッテ様はちゃんと送り届けましたか? それとも何かあったのですか?』
フォースはちらりとリズを見たあと、視線をウィンドウに戻して答える。普段であればリズに、失礼しますと言葉を挟んでから通信するはずだが……いまはなにも言わなかった。否、敢えて言わなかったのだろう。
「リリアンナ様から襲撃を受けました」
『……! リーゼロッテ様にお怪我はありませんね……⁉』
いままでで初めて聞く、動揺したヴォクス夫人の声。フォースは相手を落ち着かせるように、冷静な様子で言う。
「ご心配なく、リーゼロッテ様にはお怪我はありません」
『ほっ……』
「しかし、多少怖い思いはさせてしまいましたが……」
『……そう、ですか……』
「また、私の正体も知られてしまいました」
『…………。それは貴方の問題です』
「はい。仰る通りでございます」
いまの言葉から、ヴォクス夫人もフォースのことを知っていたようだった。
『…………』
少し考えるような沈黙があったあと、ヴォクス夫人が言った。
『いますぐヴォクス家の屋敷に戻ってきてください。リーゼロッテ様もそこにいるのですよね?』
「はい」
『なら、リーゼロッテ様もご一緒に。説明が必要でしょうし、一応念の為にヒーラーにも見せましょう』
「了解しました。しかし二つほど問題があります」
『何ですか……?』
ヴォクス夫人の声に緊張感がまとわれる。どんな大変なトラブルかと思ったのだ。
「襲撃の影響で、運転していた馬車が大破してしまいました。気絶したリリアンナ様も、このまま放っておくわけにはいかないでしょう」
『…………』
そういうことですかというような、少し安堵した雰囲気が伝わってきた。もっと大事が起きたのだと思っていたのだろう。それこそ、フォースとリズ以外にも巻き込まれた一般人がいて、大怪我をしてしまったというような。
『分かりました。代わりの馬車をいますぐ出します。リリアンナを回収する馬車も。場所はどこですか?』
「リーゼロッテ様の自宅アパートへの道の途中です。信号魔法を発信しますので、それを探知してください」
『分かりました。迎えの者に伝えておきます』
「ありがとうございます」
『とにかく無事で良かったです。それでは、また屋敷で』
「はい」
通信が終了し、フォースがウィンドウを操作する。信号魔法を出しているのだ。それも終わらせてウィンドウを閉じる。




