57 わたしなんかを助けてくれるんですか?
リリアンナがライバルにあたる婚約者のリズを襲撃したことは、間違いなくフォースによってヴォクス夫人へと伝えられる。そして他の婚約者に危害を加えようとしたとして、フランソワーズのときのようにリリアンナは婚約を破棄されるだろう。
フランソワーズやリリアンナが婚約破棄される条件は、他者に危害を加えようとしたとき……すなわち、ヴォクス家の嫁として相応しくないと判断されたときだ。
(……わたしも、誰かを傷つけようとすれば、婚約破棄される……?)
リズは思ったが、次の瞬間には首を横に振って、自らの魔が差そうになる思考を否定した。
(うぅん、そんなのだめ、だめに決まってる。わたしのために誰かが傷つくことなんて……)
しかしそれと同時に、一つの思いもよぎってきた。フォースに対する思いだった。
(……わたしを守るために、フォースさんは怪我をしてしまった……わたしなんかのために……)
改めてフォースのほうに目を向ける。彼は壊れた馬車に手を当てると、空中に作り出した大きな穴にそれを入れていた。収納魔法による収納空間だ。
それからフォースは血を流して横たわっている馬に近づき、その傷口の前で片膝をついて身を屈めていた。馬はまだかろうじて息がある状態だったが、このままではいずれ死んでしまうだろう……彼は手が血に塗れることもいとわずに、その傷口に手のひらを触れた。
するとその傷口に淡く温かい光を放つ小さな魔法陣が浮かび上がる。先ほどフォース自身も言っていたが、低級ではあるが回復魔法の陣と光だった。彼の技量でなんとか治せる傷だったのだろう、徐々にそれが塞がっていく。
その間、ずっとフォースは真面目で真剣な表情を崩さなかった。
(……フォースさん……)
彼のその姿を見て……リズは申し訳なく思ってしまう。
……どうしてわたしなんかを助けてくれるの……? ……どうして自分の身を挺してまで……?
やがて馬の治療も終わり、フォースが馬を起こして再びリズの元へと戻ってくる。依然、相変わらずの真面目な顔で。
「終わりました。これからヴォクス夫人に報告しようと思います。リリアンナ様の様子はどうでしょうか?」
「……目が覚める気配はありません……もうしばらくは起きないと思います……」
「ならば、いまのうちに報告を済ませてしまいましょう」
「その前に、いいですか? 聞きたいことがあるんです」
「なんでしょうか?」
彼の顔をまっすぐ見つめて彼女は聞いた。
「どうしてフォースさんは、わたしなんかを助けてくれるんですか? だって、わたしはただの学園に通う女の子で……フランソワーズさんのように頭も良くないし、リリアンナさんのように強いわけでもない、他の貴族の三人のようにお金を持っているわけでもないのに……」
「…………」
彼もまた彼女を見つめ返す。そして彼がその問いに答えようと口を開きかけたとき……彼のそばの空間に通信魔法のウィンドウが浮かび上がった。




