55 王国の第一王子、フォース=オルト
「……それ……?」
「…………、これですか」
ホースが自分の頬のその部分に触れる。リズがうなずき、ホースが答える。
「……これもやはり、申し訳ありません。実はこの顔は、低級の変装魔法で作った仮初めの顔なのです」
「……変装……偽物の顔……」
「……ここまで見られてしまっては、もう隠すことはできません……私の本当の顔は……」
ホースが顎の辺りに手を持っていって、魔法で作ったというそのマスクを破り取っていく。その下から現れたのは、二十歳前後の若々しい顔だった。
「あ……⁉」
その顔に、リズは見覚えがあった。数年前、リズが学園の中等部に在籍していたとき、学園を特別視察してきたことのある人物の一人……王族の第一王子、フォースその人だった。
「あ、あなたは、王子さま……⁉」
「はい。私はこの王国の第一王子、フォース=オルトで間違いありません」
「な、な、な、なんで……⁉」
なぜ王子が変装なんかして、馬車の御者などしていたのか? わけが分からず、リズは頭にはてなを浮かべまくり、目もぐるぐるとさせて混乱の極みに達してしまう。
「実はこれには事情がありまして……」
ホース、もといフォースが説明しようとしたとき、街の景観を模していた周囲が淡い光を放ち始めた。
「……どうやら、術者を気絶させたことで結界空間が解け始めたようですね」
依然あわあわとしているリズの前で、フォースは再び変装魔法で壮年の顔になる。結界空間が解けたあとに、万が一、通行人に見られたとしても王子だとバレないように。
そして霧が晴れていくように徐々に元の本物の街の姿が現れてきた。宵闇を魔法具の外灯が照らし出していて、偶然にも周囲に人の姿はない。
しかしいつ誰かが通りかかって、壊れた馬車や倒れたリリアンナを目撃されて騒ぎにならないとも限らない。フォースは思い出したように周囲に視線を飛ばすと、リズへと改めて言った。
「……とりあえず、路地までリリアンナ様を運びましょう。誰かに見られて騒ぎになっては面倒です。壊れた馬車もなんとかしなければ」
「え、あ……」
リズもまたリリアンナや馬車を見て、こくんと小さくうなずいた。自分が騒ぎに巻き込まれることよりも、王子であるフォースが関与していると知られた場合のことを考えたのだ。
(わたしのせいで王子さまに迷惑をかけるわけには……)
この襲撃はリリアンナが起こしたものであるし、その原因の公爵令息との婚約もその令息が勝手にしたことである。いずれもリズは巻き込まれた形であり、婚約破棄を目指しているのだが……フォースに迷惑がかかるのは自分のせいだとつい思ってしまうのだ。




