54 ……勝ったんですよね……?
もう一度、リリアンナが大剣を手に二人へと迫る。ホースが小さな声でリズに言った。
「先に無礼を謝ります。申し訳ありません、リーゼロッテ様」
「え……?」
いったいなにを謝ったのか、疑問の声を漏らしたリズを……ホースは腕に力を込めて、頭上の空中へと投げ飛ばした。
「へ……えぇぇぇぇ⁉」
叫び声を上げるリズを、
「⁉」
リリアンナが目で追った。まさか守るべき対象を放り投げるとは予想していなかったのだろう、リリアンナのその目の動きは、本当に無意識に、熟練の剣士だからこそ、“つい“してしまった不随意の動作だった。
「これで両手が使えます。一撃で仕留めますよ」
「っ⁉」
そして、リリアンナが視線を前に戻したときには、もう遅かった。いまの一瞬の間にホースはすでに彼女の眼前へと迫り、その拳に高濃度高威力の魔力を集中させていたのだ。
「……っ!」
とっさに防御の構えを取ろうとするリリアンナの腹部へと、
「遅すぎます」
ホースは魔力をまとった拳を振り抜いた。
「……か……ぁ……⁉」
目を見開き、リリアンナが小さなうめき声を漏らす。痛みが、彼女が耐えられる威力をゆうに超えていた。次の瞬間には彼女は目をぐりんと動かして、白目を剥いてその場に倒れ込んでいった。
勝負は一瞬で決着した。
「……ふぅ……」
ホースが一息ついたとき、その頭上からリズが大きな叫び声を上げて落下してくる。
「きゃああぁぁぁぁ⁉」
ビルの屋上から落ちている錯覚を覚えるようだった。リズの脳裏に走馬灯が流れていく。
……お父さん、お母さん……いままで育ててくれてありがとう……天国の女神さま、いままたそっちにいきます……もいっかい転生しちゃ、だめですか……?
固い地面に激突する未来に、リズが諦めて涙目になった瞳を閉じたとき……どさっと、その身体が途中で止まった。否、ホースが再びリズの身体をお姫様抱っこで受け止めたのだった。
「……あ……」
「お怪我はありませんか、リーゼロッテ様?」
目を開けたリズの視界に、いつも通り真面目な顔のホースが映った。
○
「もうっ、本当に怖かったんですからっ!」
「誠に申し訳ございません」
ホースの腕から地面に降り立ったリズが、涙目になりながら文句を言い、彼が頭を下げていた。それからリズは腕でごしごしと涙を拭うと、地面に倒れているリリアンナに怖々とした目を向ける。
「でも……勝ったんですよね……? リリアンナさんに」
「はい。彼女はすでに気絶しています。リーゼロッテ様に危害を加えることはありません」
リズはほっとしたあと、今度はホースの破けている頬に目を向けた。やはりそこは、人間の肌とよく似た覆い……肌色のマスクがあった。




