53 若さのある肌
静かにホースがリリアンナに問う。
「目的は、スクエア様との婚約関連ですか? リーゼロッテ様が正妻に選ばれないようにするための」
「ご名答。あのぼんぼんは人を見た目でしか判断しないからね。お嬢ちゃんに一生もんの傷が付けば、まず正妻には選ばない。それこそ、それだけで婚約破棄も充分あり得る」
「…………」
リズは確かに婚約破棄を望んではいる。もしも、自らの手でわざと一生残るような傷を……。
(……顔に傷がつけば……スクエアさんと別れられ……)
「リーゼロッテ様」
思いかけたリズに、顔をリリアンナへと向けたままホースが言葉をかけた。
「ご安心ください。リーゼロッテ様の身は、私が絶対に守ってみせますので」
「…………」
……だめだ……、とリズは思い直す。
(……自分で自分の身体を傷つけるなんて、だめだ……それはホースさんの思いを踏みにじることになる……お父さんやお母さんや、わたしを大切に思っている人達を悲しませることになる……)
リリアンナが言ってきた。
「本当はもっと早く襲撃するつもりだったんだけどねぇ、夕方はあのぼんぼんが同じ馬車に乗ってたせいで出来なかったよ。まったく、間の悪い男だ」
ホースが口を開く。
「……正妻の座を狙う理由は……聞くまでもなさそうですね……」
「そうだね。正妻になれば、あらゆることが出来るようになる。せっかくのチャンスが巡ってきたんだ、狙わない手はないね」
「…………」
「さあ、おしゃべりはここまでだ。お二人さんには当初の予定通り入院してもらうよ。ついでに記憶をなくすくらい思いっきり殴り飛ばしてやるからね」
そう言った瞬間、リリアンナが地面を踏み込んで二人へと迫った。リリアンナが大剣を持つ両手を大きく振り上げて、二人へと振り下ろしてくる。
「……っ!」
その剣撃を、ホースは後ろへ飛び退くことで回避する。……が、続けざまにリリアンナが片手をかざして、氷魔法による矢をホースの顔めがけて撃ち出した。
「っ」
ホースはそれを、瞬時に首を少し斜めに傾けることで、ぎりぎり直撃を避けるが……わずかに頬をかすめて、一筋の傷をつけてしまう。
そのとき、彼の腕に抱かれていたリズは見た。ホースの頬からは確かに血が流れたが、それと同時に、その頬の皮膚がわずかにめくれて、その下にもう一枚の頬の皮膚があったのを。壮年の肌ではなく、若さのある肌を。
そして、リリアンナもそれを目撃した。
「がははっ、なんだいその顔、変装だったのかい⁉」
「…………」
「その変装の下の素顔、見せてもらおうか!」




