5 お迎え
学園に遅れて登校してきたリズは、結局担任教師に見つかって説教を受けることになったものの……遅刻した原因を聞かれて、彼女が落ち込みながらスクエアの名前やヴォクス公爵家のことを話すと、担任教師は見るからに動揺した様子を表した。
「そ、そうですか、なら仕方ありませんね」
普段であれば、もっと説教されるはずなのにもかかわらず、担任教師はそれだけ言って説教を切り上げたのだ。スクエアは叔父が出資者だと言っていたが、担任教師はそのことを知っていて強く言えなかったのかもしれない。
「ご、午後の授業はちゃんと出るのですよ」
そう言って担任教師は教室をあとにしたのだが……彼女と入れ替わるようにして、今度は学園の教頭が教室を訪れてリズの名前を呼んだのだった。
「リーゼロッテさんはいますか?」
「あ、はい、わたしです」
「先程、ヴォクス公爵家の執事から通信が入りました。放課後、お迎えに上がるので正門前で待っていてくださいとのことです」
「お迎え……?」
「詳しいことはそのときに伝えるそうです」
その壮年の男の教頭はリズのことを見据えながら、続けて言う。
「ヴォクス公爵家はこの学園に出資していただいている方です。決して失礼のないようにしてください。それでは」
教頭は背を向けて去っていく。教頭の言った言葉は、まるで槍のようにリズの心に突き刺さっていた。
……もし失礼をしてしまえば、この学園は窮地に立たされてしまう……わたしの進退も……。
このルーフ学園にとって、ヴォクス公爵家は極めて大きな存在だった。ヴォクス公爵家からの資金援助がなくなってしまえば、様々な面で不都合が起こってしまうだろう。
そして一番の問題は、たとえそれがスクエア一人の感情論や都合だったとしても、ヴォクス公爵家の怒りを買って敵に回してしまえば、学園もリズ自身も窮地に追い込まれてしまうだろうということだった。
(ど、どうしよう……)
リズは血の気が引いていっていた。
○
放課後、リズは昼に言われた通り、学園の正門前にいた。多くの学生達が正門をくぐって下校していくなか、リズだけが辺りをきょろきょろと見回している。
そのリズの表情は期待に満ちたものとはほど遠く、額に陰が差しているような、青ざめた表情だった。事情を知らない者が見れば、まるでひどく苦手な知り合いに見つからないように細心の注意を払っているようにも見えただろう。
そのリズの耳にぱからぱからと馬の走る駆け音と、がらがらと車輪の回る音が聞こえてくる。馬車の音であり、条件反射のようにリズが振り返ると、道の向こうから見覚えのある馬車と、その手綱を握る御者の姿が見えた。




