49 態度としての返答
リズは一、二時間前の、リビングでのことを思い出す。リズの食べっぷりを見た直後に、スクエアは部屋を出ていったことを。
「……つまり……スクエアさんはわたしに幻滅したから、もう興味と関心を失って別の女性のところに行った……ということですか?」
ヴォクス夫人は申し訳なさそうにしながらも、小さくうなずいた。
「おそらくは。息子本人に聞いたわけではなく、これはあくまで私の憶測に過ぎませんが。仮に息子に聞いたとしても、否定されるでしょうけど」
「…………」
「また、スクエアが抱くその幻想は、それぞれの女性に対して微妙に異なるようです。一人目の婚約者であるシャーロットさんは、貴女とおおよそ同じく深窓の令嬢のような幻想を抱き……二人目のリリアンナさんに対しては、自分が困ったときにはすぐに颯爽と駆けつけて、その問題を即座に解決してくれるという、頼もしい女性という幻想を抱いているようです」
「……個人の性格や特徴を踏まえての幻想みたいですね……」
「ええ。……個人ごとに分けているという意味においていえば、それらの個人を見て判断しているともいえるかもしれませんが……」
問題は、それが過度な幻想であるということだった。つまり、少しでもその幻想と違っていれば期待を裏切られたと思い、別の新しい女性へと浮気してしまうのである。
ちなみに、ヴォクス夫人はこの場では言わなかったが、スクエアは三人目のフランソワーズに対しては……天真爛漫で無邪気な子供のように明るく、いつどんなときも自分を全肯定してくれる女性だという幻想を抱いていた。しかしあるとき、普段見せているそれとは違う様子や、自分を全肯定してくれなかったことがあり、この女性は求めていた人とは違うとして興味関心を失ったのだった。
「スクエアには、新たな婚約者を作らぬように常に見張りを置いていることは以前も話しましたが……正直なところ、親である私も夫も、スクエアの行動は目に余ると思っています。できれば、なるべく早いうちになんとかしたいと考えています」
「それって……?」
いったいなにを言いたいのかと、疑問符の浮かぶ顔で問うリズに、ヴォクス夫人は答えた。
「身を固めてもらうこと、誰かと結婚して、否が応にも他の女性のところへは行けないようにしてしまうことだというのが、いま考えているなかでは最有力です」
「……っ!」
「無論、他にもいくつかは考えてはいますが……」
ヴォクス夫人の言ったことはつまり、残る三人の婚約者と早く結婚させたいということだった。そうすれば、スクエアはもう他の女性には言い寄れないだろうという考えだった。
しかし、リズには疑問が残る。
「……本当に、結婚すれば浮気はしなくなるでしょうか……?」
「…………」
沈黙。言葉としての返答はなかった。しかし、それこそが、態度としての返答に違いなかった。
……たとえ結婚したとしても、スクエアが本当に浮気をしない保証はない……という。




