47 ……どうしてこうなったの……⁉
ヴォクス夫人は神妙な顔になって口を閉ざした。そばに控えていたホースもまた、驚いたように目を見張っていた。二人ともリズが快く承諾すると予想していたらしい。
やがて神妙な顔を崩さないまま、ヴォクス夫人が口を開く。しかしそこから発せられたのは憤りや不敬を咎める言葉ではなく、むしろ納得したような反省したような声音だった。
「……なるほど……確かに、我がヴォクス家を助けてくれた方とはいえ、そのような愛称で呼ぶのはまだ早計ですね。貴女は確かに息子の婚約者の一人ですが、いまはまだお互いに何も知らない赤の他人同士なのですから」
……うんう、ん……?
どこか雲行きが怪しいのをリズは感じ取った。しかし彼女が口を挟むより先に、ヴォクス夫人が言葉を続ける。
「貴女のことは、リーゼロッテ様と呼ぶことに致します。そして今後、お互いに相手のことを知っていって、ちゃんとした親しい関係を築いてから、愛称で呼ぶことにしましょう」
「え、あの、ちょ……?」
「まずその第一歩として、今日は我が家で一緒にディナーを食べることにしましょう。リーゼロッテ様は現在一人暮らしの身で、お夕食も一人で食べているのでしょう?」
「あ、いや、まあ、そうですけど……」
「では、そういうことに致しましょう。ちょっと早いですが、さっそくディナーの用意をさせます」
ヴォクス夫人がホースに目配せをして、うなずいたホースがドアから外へと出ていった。厨房にいるコックに伝えに行ったのだ。
いきなり移り変わる展開にリズはついていけず、そのホースへ制止の声をかけることもできなかった。そしていまだに状況に追いついていない彼女に、ヴォクス夫人が言葉を言う。
「では、ディナーの準備が整うまで、ここで親睦を深めるためのお茶会でもしましょうか。あ、ホースはいま出ていってしまったので、代わりのメイドを呼びましょう」
「…………」
……どうしてこうなったの……⁉
リズは心のなかで疑問の声を叫んだ。
○
「……おいしかった……」
帰りの送迎馬車が置いてある屋敷の門前まで向かう途中、リズはそう小さくつぶやいていた。
ヴォクス家での初のディナー。相席していたのはヴォクス夫人と現当主のヴォクス氏本人……スクエアに強引に最初にここに連れてこられたときにいた二人だった。
そのディナーを開始して直後は、緊張でがちがちで、食べ物も飲み物も喉を通らなくなるかと思われたほどだった。しかしいざ香ばしい匂いのハンバーグの一切れを口にした途端……頬が落ちてしまうのではないかというくらいのそのおいしさに、ナイフとフォークを動かす手を止められなくなるほどだった。




