43 手で直接持って
ヴォクス夫人はフランソワーズへの処遇に対して――ヴォクス夫人自身はフランソワーズただ一人だけを対象にして、フランソワーズの家族には直接の処罰をくださなかったらしい。無論、フランソワーズの家族は結局はフランソワーズと運命をともにすることにはなったが、それはあくまでフランソワーズの家族が選んだ道だった。
(わたしの家族や学園には、なんとかごまかして、わたしだけを嫌いになって婚約破棄してもらえば……もしかしたら……)
もしかしたら、また自由の身になれるかもしれない。二度目の人生を謳歌して、強制ではない自由な恋愛をできるかもしれない。
リズは、それを目指すことに決めた。
リズがついてきていないことに気づいたスクエアが振り返って言ってくる。
「おおい、リーゼロッテさん、どうかしましたか?」
それには答えず、リズはつぶやくような声でホースに言った。
「行きますよ、ホースさん」
「……はい」
先ほどまでとは違う決意したリズの声音に、ホースは彼女のほうを見直すようにして返事をする。ホースの瞳は若干見開かれていて、返事こそ落ち着いていたが、内心ではかすかな驚きや戸惑いがあるらしかった。
そうしていままでよりも力強く、リズは足を踏みしめながら屋敷までの舗装された石畳を歩いていく。そのあとを、ホースがついていくのだった。
○
「…………」
「…………」
ヴォクス家の屋敷内のリビングにて。一人一つの、それぞれのソファに座るスクエアとヴォクス夫人は、もぐもぐとケーキを手で持って食べるリズを見ながら、目を丸くしていた。
「り、リーゼロッテさんはケーキを手で食べるんですね……?」
そう疑問の声をこぼしたのはスクエアだ。貴族として育てられたからだろう、スクエアはものを手で持って食べるという発想自体がなかったようだった。
リズの自宅アパートの自室以上に広いリビングには、いま四人の者達がいる。リビングの中央にあるテーブルの、ドアに近い側のソファにリズ、その対面にヴォクス夫人、ヴォクス夫人の右隣のソファにスクエア、そしてヴォクス夫人の近くに控えるホース。
先の屋敷前において、リズのなにかしらの変化に一早く気づいていたホースは、いまの彼女の態度を冷静な眼差しで見ていた。むしろ観察していたといったほうが正しいかもしれないが。
リズはケーキを食べ終わると、今度はドーナツの皿に手を伸ばす。手元のナイフとフォークを使うことはせず、やはり手で直接持ってぱくぱくと食べ始めた。




