4 婚約指輪
昼ごろ、学園ではお昼休みの時間帯に、ようやくのことでリズは連れ回しから解放された。リズの右手の薬指には、太陽光を受けてきらりと光る婚約指輪がはめられている。
「はあ……」
その婚約指輪を見下ろしながら、リズは深い溜め息を吐いていた。
あのあと……スクエアがリズを連れて自宅屋敷から出たあと、スクエアはいくつもの装飾品店へと彼女を連れ回したのだった。
リズが、
「べつにいりません!」
とか、
「婚約する気はありません!」
などと否定の言葉を上げてもスクエアは聞く耳を一切持たず、彼女に相応しく、指に似合う最上級の指輪を見つけるために昼まで時間をかけたのだ。
もはや彼にはなにを言っても無駄だと悟ったリズは諦めの境地に至り、首をうなだれさせてスクエアのあとに従うしかできなかった。そうしてようやくスクエアの納得のいく指輪が見つかって、それをリズへとプレゼントして、彼女を学園の前まで馬車で送ったあとに、自分はこれから用事があるからと去っていったのである。
「……授業……受けなきゃ……」
連れ回されたことや振り回されたことによる心身の疲れを感じて、肩をがっくしと落として、気持ちも重くなりながら、リズは重い足取りで学園の正面玄関へと向かっていく。幸か不幸か正面玄関にも廊下にも教師の姿は見えなかった。
それでもリズは自分のクラスの担任教師にだけは見つからないようにして、辺りをきょろきょろとしながら自分の教室へと向かっていく。もうすぐで教室に到着するというときに、がらりとその教室のドアが開いて見知ったクラスメイトの顔が現れた。
「あ、リズ⁉」
その女子学生がリズに気づいて、彼女へと小走りに寄ってくる。戸惑うリズの肩を揺さぶって、びっくりしている声を出した。
「朝のあれ、見てたよ! あの人ってヴォクス公爵家の跡取り息子じゃん! いったいどうしたの⁉」
「え、えーっと……」
「あたしの他にも見てた子いるんだからっ、ほら、クラスのみんなに説明してよっ」
そう言って、その女子学生はリズを教室へと連れていく。クラスメイト達もまたリズの姿を見るや一斉に近寄ってきて、彼女へと魔法の弾幕のように質問を浴びせるのだった。
「え、えーっとね……」
目撃者は多数に上り、またスクエアの声がそれなりに大きかったこともあって、そのプロポーズの言葉を聞いていた者も何人かいた。つまりリズがこの場で誤魔化すことは非常に困難であり、結局、観念した彼女はみんなに一部始終を打ち明けるのだった。
「えーっ⁉」
「うそーっ⁉」
「リズが結婚ーっ⁉」
「あのヴォクス公爵家の息子とーっ⁉」
リズの説明にクラスメイト達は口々に驚きの声を上げていた。特に盛り上がっていたのは女子達であり……というよりもリズの周りに寄って話を聞いていたのは女子ばかりだったのだが……彼女らは驚くと同時に羨望の眼差しもリズに向けていた。
「あ、あのまだ結婚するって決まったわけじゃ……」
リズはなんとか否定しようと努力するのだが、すでに女子達の間に広まった波を抑えることはできず、彼女らは口々に、
「いいなー」
「スクエアさまってかっこいいよねー」
「リズが玉の輿をゲットしちゃったー」
「結婚式の日は呼んでねー」
などと感想を述べ合って、きゃあきゃあと、かしましく話をしあっていた。もはやリズの結婚は既成事実になりつつあり、彼女の手には負えない事態へと進行しつつあったのだった。
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