36 追放
翌日の朝、リズの自宅アパートにて。リズが自室の玄関ドアを開けたとき、目の前にホースがかしこまった様子で立っていた。
「うわぅ……⁉」
いきなりの出現に、リズは思わず変な声を出しながら驚いてしまう。しかしすぐに気を取り直してホースへと文句を言った。
「ホースさんっ、朝の送り迎えはいいって言いましたよねっ」
「はい。なので今朝は送迎ではなく、報告をしに参りました」
「報告……?」
「昨日のフランソワーズ様の件に関してでございます」
「……!」
あのあと……ヴォクス夫人がフランソワーズにスクエアとの婚約破棄を言い渡したあと、当然ながらヴォクス家とフランソワーズの自家であるワトロ家では騒ぎが起こっていた。ただし騒ぎとはいっても、両家ではそれぞれ騒ぎの大きさや意味合いは異なっていたが。
ヴォクス家で騒いでいたのは主に執事やメイドなどの使用人達であった。それはうわさ話の様相に近く、波紋のように婚約破棄の話が広まっていき、それに伴いフランソワーズのいままでの振る舞いへの文句も混じっていた。
『スクエア様の婚約者であることを笠に着て、色々と高い物を買いまくっていた』
『ワタクシがスクエア様の正式な妻になったら、貴方なんか簡単にやめさせてあげるなんて言われていた』
などである。ヴォクス家の使用人達の間では、正直なところ、フランソワーズとの婚約が破棄されたことを安堵している者のほうが多かった。
一方、フランソワーズの自家であるワトロ家では……主人も使用人達も、まるでこの世の終わりのような騒ぎになっていた。この国でも指折りの権力と財力を持つヴォクス家を怒らせてしまったとして、いまにも自殺や心中、あるいは夜逃げをせんばかりの大騒ぎであった。
当然ながら、フランソワーズの両親は彼女を酷く叱責した。お前のせいでこんなことになってしまったと罵詈雑言を浴びせ、意気消沈していたフランソワーズは文句を言い返す気力もなく、絶望の表情でうなだれていた。
これらの騒ぎが起きていたことを、ホースはかいつまんでリズに話していく。話を聞いて、驚き、やや額に陰を差して暗い顔になるリズにホースが付け加えるように言う。
「……これらはフランソワーズ様ご自身が招いた結果でございます。リーゼロッテ様、貴女が責任や負い目を感じる必要はまったくありません」
「……分かっています……ああしていなければ、こうならなければ、わたしのほうが大変な目に遭っていたんですから……」
「その通りでございます」
それでも暗い顔のままの彼女に、ホースは言葉をかける。
「……リーゼロッテ様はお優しいのですね」
「え……」
少しうつむかせていた顔を上げてホースを見るリズに、彼は先の話の続きをした。
「フランソワーズ様への処遇ですが、この国の僻地へと転居していただくことになりました。そしてヴォクス家が指示しない限り、この王都へもヴォクス家へも近寄ってはならないという条件をつけることになりました」
「それって……」
「簡単に言うならば、追放ということになります」
「…………」




