34 相対
座っていた応接ソファの位置関係上、ヴォクス夫人の視線の先にフランソワーズの姿が現れたことになり……リズとホースがフランソワーズへと振り返る。三人の視線を一身に受けて……特にヴォクス夫人の鋭い視線を浴びて、フランソワーズが、あ、という顔を浮かべた。
いまの猫なで声と可愛らしい振る舞いをとっさにしまいこみ、姿勢を正してフランソワーズがカーテシーをする。
「これは大変失礼を致しまして、誠に申し訳ありません。先ほど通信魔法でスクエア様に聞いたところ、こちらでくつろいでいると伺ったものでしたから」
「スクエアならいませんよ。あの息子なら、また街に遊びに行きましたから。夜のバーでお酒を飲みたい気分だそうです。まったく……」
「そ、そうでございましたか。存じ上げず、誠に申し訳ありませんでした」
「構いません。あの子が勝手に吐いた嘘ですから」
「…………っ」
それはすなわち、婉曲的にスクエアはフランソワーズとは会いたくなかったことを意味している。フランソワーズだけでなく、リズもまた聞かされていなかったということは、つまりそういうことなのだろう。
フランソワーズは心なしか、少しそわそわとしていた。スクエアに嘘をつかれて遊びに行かれたということもあるが、ヴォクス夫人と相対しているため、いままでリズが見てきた彼女のイメージにそぐわないような……いますぐにでもこの場を離れたいとでもいうような様子だった。
この女、苦手なのよね……おそらくは、フランソワーズは内心ではそう思っていたのかもしれない。この女というのは、無論ヴォクス夫人のことに違いなかった。
ヴォクス家の財産を狙う以上、序列第二位の夫人はフランソワーズにとって、目の上のたんこぶなのである。たいていの男性には効果抜群の猫なで声も、ヴォクス夫人には通用しなかったことも、少なからず関係していた。
「り、リーゼロッテ様とのご用件の最中でしたようなので、ワタクシはお暇させていただきますね。それでは、ごきげんよ……」
別れの挨拶を述べてフランソワーズが退室しようとしたとき、彼女はテーブルの上に浮かんでいるウィンドウにようやく気づいたようだった。それがどういう魔法なのかは、初めて見たので分からない……しかし、そこに映っているのが昨日の自分の姿だということには気づいたようだった。
「そ、そこに浮かんでいるのは何でございましょうか……?」
映像のなかの彼女とは似つかわしくない、おそるおそるといった声音でフランソワーズは尋ねる。事実だけを告げるように、冷静な声でヴォクス夫人が答えた。
「ホースさんの記録魔法です。エイゾウという、過去に起きた事実をお見せしてくれる魔法ですよ」




