31 貴女の味方に
「……どうしよう……どうすれば……」
リズが顔を少しうつむかせ、額に陰の差す暗い表情でどうしようかと考え始めたとき……ホースが彼女に声をかけてきた。
「……一つ、お聞きしてもよいですか?」
「え……ホースさん……?」
「どうしてリーゼロッテ様は、貴女は、このような策謀が判明したのに、いまだにスクエア様との婚約を破棄なさることを考慮しないのですか? なぜ、この街から、ヴォクス家から去ろうとしないのですか?」
「…………、二つ聞いてますよね、それ」
「……申し訳ありません、二つでしたね、確かに」
自分でも細かくてつまらないことを指摘したなとリズは思いながら、ホースのその問いに答えていく。
「婚約を破棄しない理由は簡単です。正当な理由なしに破棄してしまえば、どっちみちわたしはこの学園を退学になってしまい、両親のいる故郷に帰らなくてはならなくなってしまいます。スクエアさんとヴォクス家と、それにこの学園に大きな恥をかかせてしまったとして。両親にも迷惑をかけてしまうでしょう」
転生後の、この異世界における親だとしても、リズにとっては大切な人達なのだから。勝手な理由で巻き込まれてしまった形とはいえ、両親に迷惑はかけたくなかった。
ホースがつぶやく。
「……ヴォクス家を去らない理由も、それですか……フランソワーズ様の策謀にはまってしまうことになろうと、自ら婚約を破棄しようと、結末に大差はないのだから……いえ、婚約を破棄したくてもできないから、自力でなんとかしなければならない、と……」
「まあ、そんなところです」
「…………」
数秒の間、ホースは口を閉じてリズを見つめていた。その顔つきはいつものように真面目であり……だからこそ、なにを考えているのか予想することが難しかった。
「あの、ホースさん……?」
そうしてホースの見つめる瞳にリズが戸惑いを覚え始めたとき、ようやくのことで彼は彼女から視線を外して、かたわらに浮かんでいたウィンドウに手をかざしてそれを消した。
ウィンドウがあった場所に顔を向けつつ、ホースが言葉を紡ぐ。
「……承知しました。リーゼロッテ様の事情と現状、誠に失礼ながら、私は少し甘く考えていたようでした」
ホースがリズに向く。人生の半ばに差しかかろうとする壮年のその顔と瞳には、しかし静かな情熱が燃え初めているのが感じられた。
「しかしリーゼロッテ様の事情と現状をいま確かに知り、フランソワーズ様の策謀を見聞きしてしまった以上、私には放っておくことはできません」
「ホースさん、なにを……?」
「リーゼロッテ様。私は貴女の味方になりましょう。貴女を守るために、フランソワーズ様の策謀を必ずや打ち砕きましょう」
「……っ!」
まっすぐな顔つきと瞳でホースはそう宣言し、リズは驚きに目を見開くのであった。
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