30 黒幕
不良学生達が廊下へと出ていく。ドアが閉まったあと、フフフと口元を歪ませながらフランソワーズがつぶやいた。
『リーゼロッテを引きずり下ろせば、ワタクシがスクエアの正妻になれる確率が上がる……そうなれば、将来のヴォクス家の財産と権力はワタクシのものも同然』
リズはまさかと思った。まさかこの人は、それが目的でスクエアさんの婚約者に自ら立候補したのかと。ホースも同じことを思っているのか、微動だにしない真面目な顔つきで、ウィンドウのなかのフランソワーズのことを見据えていた。
『ほんと、ヴォクス家の長男が美人に目がない馬鹿な男で都合が良かったわ。ちょっと猫撫で声で近寄ったら、すぐに婚約者になれたんだもの』
フランソワーズはテーブルに置いていた扇を持つと、それを広げて口元へと当てる。扇の向こうでは、ウフフと微笑を漏らしていた。
『リーゼロッテを引きずり下ろしたあとは、残る二人の婚約者も引きずり下ろしてやる。まったく、何人も婚約者を作るなんて、ほんと手間がかかること……ま、だからワタクシも付け入ることができたんだけど』
フランソワーズは一度写真に目を落としたあと、不良学生が去っていったドアを見やった。
『あの庶民二人も愚かよね、金さえ積めば何でもしてくれるんだから。せいぜい利用できるだけ利用して、いらなくなったら捨ててやるわ。ゴミのようにね。代わりはそこら中にいるんだし』
ウィンドウがそこまでの映像を流したとき、ザザザッと砂嵐が入って、ぷつりと画面と音声が途切れてしまった。リズがホースに目を向けると、彼は少しの魔力を帯びた手をウィンドウにかざしていた。
「……申し訳ありません。これ以上は、リーゼロッテ様を不快な気分にさせると思い、勝手ながら出力を中断させていただきました」
「…………、いえ……」
リズは努めて落ち着いた声で答える。
「……心のどこかでは、予想していたことでもあったんです……。フランソワーズさんには、昨日お会いしたときに意地悪をされてしまいましたから。もしかしたら、今回の件はスクエアさんの婚約者の誰かの差し金じゃないかと、それならば可能性が高いのはフランソワーズさんかもしれないって……」
「…………」
リズはホースを見つめて聞いた。
「……それよりは、黒幕が分かった以上、わたしがこれからどうするかを考えたほうが良いと思うんです。わたしを引きずり下ろすのに失敗したんだから、フランソワーズさんは次の手を打ってくるはずです。その前になんとかしないと……」
おそらく次なる手は、今回よりも卑劣で、確実にリズを貶められる策で来るだろう。そうなれば、リズはこのままでは婚約者を下りるどころか、この街や国にさえいられなくなるかもしれないのだ。




