29 動きのある映像
ウィンドウに一時的にノイズが走り、不良学生がとある大きな建物に入っていく場面が映し出される。静止した画像ではなく、動きのある映像だった。
しかし初めておこなう映像の出力だからか、滑らかではなく、どことなくぎこちなかった。それでも見るぶんには支障はなかった。
「……ここは、フランソワーズ様のお屋敷のようですね。以前、スクエア様がお訪ねになったことがあります」
御者であるホースも、お供としてついていったのだろう。
映像のなかの不良学生がとある部屋のドアをノックして、数秒してからドアを開けて入っていく。なかにいた者との受け答えがあったようだが、音声は聞こえず、映像は無音が続いていた。リズの元いた世界のサイレント映画のようだった。
「音声は聞こえないんですね……」
「当時の会話や音声自体は、写真にも記録されていると思われますが……」
「それも再現することってできますか?」
「やってみます」
ホースがウィンドウに再び手をかざす。ザザッというノイズ音が走ったあと、多少ノイズが混じっていたものの映像に音声が付加された。
室内のソファに座るフランソワーズに、不良学生の男子が言っている。
『……っちり撮れましたよ、フランソワーズ様。リーゼロッテのやろうを、ヴォクス家の婚約者から引きずり下ろせそうな写真を』
『そう、それは良かったわ。現像はもう済んだの?』
『ここにあります。良かったらご覧になってください。さすがはフランソワーズ様が手に入れた小型カメラ、傑作が撮れましたよ』
不良学生から写真を受け取って、フランソワーズがそれに目を落とす。ふーんとつぶやきをこぼしてから、
『こいつって、ヴォクス家にいた御者のおっさんね。スクエアの馬車を運転してるのを見たことあるわ』
『ヴォクス家から出たあとを馬車でつけてみたら、そいつと買い物デートしてたんですよ。他にも何枚か撮ってますが、それが一番出来が良かったんで。気取られないようにするのが大変でした』
『そ。これでリーゼロッテを引きずり下ろせそう?』
『任せてください。あることないこと吹聴して、クラスの奴らを信じさせますから。あいつらバカばっかだからすぐに信じますよ。それより、ちゃんと報酬は払ってくださいね?』
『分かってるわよ。でもリーゼロッテを引きずり下ろすのに成功してからね。そのためにちゃんと働きなさい』
『了解っす。んじゃ、俺達はこれで……』
『あ、この写真はここに置いておくわね、なくしたら困るから。明日の朝、執事に届けさせるわ。封筒のなかにでも入れて』
『分かりました。んじゃ俺達はこれで失礼します』




