25 まさかね
その後、担任の教師が教室にやってきて、教壇にいるリズに不思議そうな顔をしながらも朝のホームルームを始めますよと言って、リズ達は自分の席へと座っていく。
そうして朝のホームルームが無事に終わり、一時限目の授業が始まる前の十分の小休憩のとき、リズは昨日自分とホースのことを目撃して、朝にそのことを証言してくれた女子学生……不良学生達の言葉が嘘であると証明してくれたクラスメイトのところへ足を運んでいた。
「さっきはありがとうございます。わたしのために証言してくれて」
「え、あ、うぅん、そんなお礼を言われるようなことじゃないよ。あたしは見たままを言っただけだし」
だがそのおかげで、リズの疑惑は晴れたのだ。
その女子学生が聞いてくる。
「それにしても、なんでリーゼロッテさん、昨日あんな恥ずかしそうにしてたの?」
「それは……ホースさんが庶民離れしたことばっかり言うから……」
リズは昨日の食料品店でのことをかいつまんで話す。ホースが庶民的な感覚から外れた言動を繰り返したため、一緒にいたリズのほうがとても恥ずかしくなってしまったことを。
それを聞いて、女子学生やその友達の女子達もあははと笑い声をこぼした。ホースの言動についおかしくなってしまったようだった。
「へぇー、けっこう年いってる使用人の人なのに、そんなこと言うんだぁ」
「ねぇー。まるで初めて家から出た王公貴族の人みたい。お忍びで庶民の暮らしを見てみましたみたいな」
「だよねぇ、あたしも思ったぁ」
彼女達はしきりにうなずきあっている。それらの言葉を聞いて、リズも、
「まさかぁ」
と相槌を打っていた。もう一度、今度はリズも含めてあははと笑い声がこぼれた。
そうしているうちに小休憩の終わりを告げるチャイムが鳴り、リズ達は自分の席へと戻っていく。一時限目の授業のノートと教科書を取り出しながら、
(まさかねぇ……)
リズはそう思っていた。
○
放課後、学園の正門前にて。
リズは額に手を当てるようにして、まるで頭痛でも我慢しているような顔をしていた。それというのも……。
「ホースさん、なんでここにいるんですかっ⁉ 馬車も一緒にっ」
「リーゼロッテ様をお迎えに上がったからでございます」
ホースが正門前にいて、リズのことを待っていたからである。正門を通る学生達は珍しそうにホースや馬車を見ていて、なかにはくすくすと笑い声を漏らす者もいた。
それはともかくとして、リズはホースに文句を言った。
「お迎えはいらないって言ったじゃないですかっ」
「朝のお迎えに関しては、確かにそのように伺いました。ですがいまは放課後のお迎えでございますので」
「あ……」
……放課後のお迎えもいらないって言っとくんだった……。いまさらではあるが、リズはそう言わなかった自分を悔やんだ。
「そこは察してくださいっ。朝のお迎えがいらないんなら、放課後もいらないはずだって」
「私は予知能力者でも他人の心が分かるわけでもありませんので、その場合は言葉で仰ってください」
「じゃあ言います。お迎えはいらないのでお帰りください」
「……申し訳ありませんが、エリザベス様からのご命令でございますので、それは承諾いたしかねます。必ずリーゼロッテ様を自宅まで送り届けるようにと承っておりますので」
「……っ⁉」
エリザベス……ヴォクス家の現当主の妻であり、リーゼロッテも昨日会った女性のことだ。現在のヴォクス家における第二位の権力と発言権を持ち、逆らえる力を持つのは夫である現当主だけである。




