22 モノクロ写真
翌朝。登校するためにアパートの自室を出る際に、リズはドアから首だけ出して辺りをきょろきょろと見回していた。はたから見れば怪しいことこの上ない挙動だった。
「……よし。ホースさんはいないっと」
昨日釘を刺しており、またホースの性格的にも迎えには来ないとは思ってはいたが……それでも一応、確認だけはしておくに越したことはないと思ったのだ。
ホースも、彼が乗る馬車も周囲にいないことを念入りに確かめてから、リズは胸を撫で下ろして外に出る。それからドアに鍵をかけて、いつものように朝の登校へと足を踏み出すのだった。
朝の通学路に異変はなかった。いつものように顔見知りの人達に朝の挨拶をして、登校途中で会った友達とおしゃべりしながら通学路を進み、学園の正門をくぐって正面玄関の下駄箱で上履きに履き替える。
いつも通りの朝の登校だった。
異変が起きたのは、それに気づいたのは、リズが自分の教室のドアを開けたときだった。教室のなかにいたクラスメイト達がリズのほうを見て、いつもなら友達がおはよーと言ってくるはずなのに、みんながさっと彼女から視線を逸らしたのだった。
(え……?)
リズは困惑してしまう。彼女と一緒に登校してきた友達も戸惑った顔を浮かべて、近くにいたクラスメイトの一人に聞いていた。
「え、どうしたの? なにかあったの?」
「…………あれ……」
そのクラスメイトが黒板のほうを指差す。友達もリズもそちらを見て、そこに薄い紙切れが貼られているのに気づいた。一枚のモノクロ写真だった。
その写真の下には、白いチョークで文字が書かれていた。
『ヴォクス公爵令息の婚約者リーゼロッテ、年上の恋人と買い物デートをする!』
「「……っ⁉」」
リズと友達が驚愕の表情を浮かべる。友達が思わずリズに顔を向けるなか、リズは黒板にセロテープで貼られているモノクロ写真を見ていた。
それは昨日、ホースとともに食料品店で買い物した際の一幕を写した写真だった。いつ撮られていたのか、まったく気づかなかった。
(誰が……⁉)
リズが転生したこの異世界にも、元の世界のように写真技術が存在していた。
ただしその技術レベルは、元の世界における写真技術の初期程度のものだった。基本的には特別の道具が備わっている施設での撮影であり、費用も一般家庭が払うには高く、画質もモノクロだった。
そのため、写真撮影をおこなうのは主に王公貴族や、資産を持つ上流階級だった。本来であれば、このような一学園の一教室の黒板になど、貼られるわけがない代物である。
(ポラロイドカメラ……⁉)
前世の記憶を持つリズはすぐに思い当たる。いや、正確には、リズ自身、ポラロイドカメラの現物やそれで撮られた写真を見たことがあるわけではない。ただ転生前の人生における昔の映画やドラマなどを見たとき、あるいはインターネットの記事などを読んだときに、そのようなカメラの存在を知ったのである。
前世のリズの世代では、ポラロイドカメラはすでに過去の遺物になりつつあり、ほとんどが携帯用端末に備え付けられた小型高性能デジタルカメラであった。




