21 自分自身に言い訳を
呆然としてスクエアの去っていったほうを眺めていると、リズのそばに馬車が駆け寄ってきて停止する。ホースが乗る馬車だった。
「お待たせいたしました、リーゼロッテ様。どうぞ、こちらへ」
御者台から降りて、ホースが馬車のドアを開ける。そんな彼をリズは見るともなしに見つめていた。
……もう少し若かったら……。
ホースを見つめて、リズはついそう思ってしまっていた。ホースの見た目は壮年であり、リズとは一回りも二回りも年が離れている。
確かに彼は真面目すぎるきらいはあるが、もし自分と同じくらい若ければ……と。さすがに自分の父親と同じくらいの年齢の人と……親子くらい年が離れている人と、恋愛関係になるのは難しかった。
(もし仮にそうなったとしても、ホースさんとは買い物には行きたくないけど……はっ……!?)
思ったあとに、リズは首をぶんぶんと振った。なんでそんなことを思ったのだろうかと、自分を疑ってしまう。そんな関係になることも、そんな感情を抱くことも、あるはずがないのに。
「リーゼロッテ様? いかがなされましたか?」
はたから見れば、リズのいまの様子は奇異に映ったのだろう、ホースは不思議そうな、心配そうな顔と声で聞いてきた。リズは慌てて答える。
「い、いえ、なんでもありません。いま乗りますね」
ドアまで続く階段状の足場を上って、リズはそのなかへと入っていく。まだ少し不思議そうな顔をしながらもホースはドアを閉めて……そして馬車は走り出した。今度こそリズの自宅アパートへと向かって……。
…………。
リズの自宅アパートに到着して、馬車から降りた彼女にホースが言ってきた。
「部屋までお送りします」
「だ、大丈夫ですっ、もうすぐそこですからっ。一人で帰れますっ」
「そうですか?」
「そうなんですっ。じゃ、さよならっ」
「ではまた明日。朝にお迎えにあがります」
彼に背中を向けて部屋に行こうとしていたリズが、まるでバレエのターンでもするかのように、くるりと一回転するようにして再び彼へと向く。
「む、迎えに来なくて大丈夫ですからっ」
「しかし、スクエア様の婚約者様であるリーゼロッテ様を学園まで送り届けなくては……」
「だから大丈夫ですっ、登校くらい一人でできますっ。とにかく迎えには来なくていいですからっ」
「……かしこまりました。それでは私は失礼致します」
リズに強く拒否されたからだろう、ホースは素直に引き下がって、馬車に乗るとヴォクス家へと帰っていった。最後に見たその顔が少し寂しそうに、心底残念そうに見えてしまって、リズは、
(……ちょっと強く言いすぎたかな……)
そう少し後悔しそうになる。けれどすぐに思い直して首をぶんぶんと振った。
「い、言いすぎてなんかないしっ。朝にお迎えに来られたら困るのはほんとだしっ。わたしなんかが馬車で学園に行ったら目立ちまくって恥ずかしすぎるしっ」
べつに誰も聞いているわけでもないのに、リズは声に出してそんなことを言ってしまう。まるで自分自身に言い訳をしているようだった。
「と、とにかく、晩ご飯食べて、お風呂入って、明日の準備して……あ、あと寝る前に予習と復習もしなくちゃ……」
そんな一人言をつぶやきながら、リズはアパートの自室へと帰宅していくのだった。
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