20 つかれた
(つ、つかれた……)
店の入口を出て、リズは肩をうなだれるようにしてしまう。会計待ちも含めて、買い物に費やした時間は二、三十分くらいだったはずだが、体感的にはそれ以上に感じて疲れてしまったのだった。
どちらかといえば肉体的な疲労ではなく、気疲れ……ホースの言動に対する精神的な疲れだったが。
「リーゼロッテ様は買った品物を収納魔法にしまわれていましたが、他のお客様は白い袋をもらわれたり、ご自身の袋をご持参していましたね」
「……あ、はい、このお店では袋を持参すると、ちょっとだけ会計額から値引かれるようですね。雀の涙くらいですけど」
正確には、店側が提供する袋を断った場合に、わずかに値引きされるサービスだった。リズもちょっとだけ値引きされており、ちりも積もれば山となるのごとく、こういうときは収納魔法が使えて良かったと思わなくもない。
が、そう思った瞬間、リズはまたしてもずーんと肩を落としてしまう。
(わたしって……やっぱり庶民……っ)
己の身分を思い知るようで、恥ずかしさが復活するのだった。
「それでは私は馬車を取ってきます。いま少しお待ちくだ……リーゼロッテ様? 大丈夫ですか?」
落ち込んだ様子のリズにホースが心配そうな声をかけてきて、彼女は慌てて顔を上げて両手を振った。
「だ、大丈夫、大丈夫ですからっ。わたしのことは気にしないで、馬車を取ってきてくださいっ」
「そうですか……? リーゼロッテ様がそう仰るのなら……かしこまりました」
リズ自身がそう言うのなら、あくまで御者である自分はそれに従うしかない……そう判断したらしいホースが、来たときに停めた馬車置場へと向かっていく。その背中を見送りながら、リズはほっと安堵の息をついた。
と、そのとき、距離の離れたところから聞き知った声が聞こえてきた。底抜けに明るいような、それでいて女性を口説く声だった。
「おおっ、なんと美しい人なんだ! こんな美しい人は初めて見た!」
……この声は……。リズがそちらを振り返ると、やはり案の定、離れた道の向こうにスクエアの姿が見えた。彼に手を握られて困惑する女性の姿も。
「一目惚れしました! どうか私の……」
聞き覚えのある言葉。スクエアがその先を言おうとしたところで、そばに停まっていた馬車から老齢の執事が慌てた様子で降りて、スクエアの口を急いで手で塞いでいた。
「むがーむがー」
言葉にならない声を手の隙間から漏らすスクエアを引っ張って、執事が馬車へと引き戻していく。呆気に取られた様子の女性を残して、馬車は猛スピードでその場を走り去っていった。
「…………」
おそらく、最初の婚約者のシャーロットも、二番目のリリアンナも、あんなふうに口説いて婚約したのだろう。リリアンナのときは街なかではなく、森のなかで襲撃から助けてもらったときだったらしいが。
……もしかしなくても、いつもあんなことしてるの……?
リズはそう思った。もはや怒りとか嫉妬とかそういうものを通り越して、呆れた感情だった。元々スクエアに恋愛感情は抱いてなかったが、いまの様子を見て、今後一切そんな感情を抱くことはないだろうなと思った。




