16 堅物で無愛想だけど
ホースがリズに言った。
「ではリーゼロッテ様、皆様との顔合わせも済ませましたし、明日も学園で早いでしょう、今日はもうお帰りになられてはいかがですか?」
「え、あ……」
リズ自身としては、三人がいるあの部屋に戻るのは、正直なところ気が引けていた。フランソワーズにまた意地悪されてしまうかもしれないし、リリアンナとフランソワーズの険悪な雰囲気に気まずい思いもしたくはなかった。
しかし、本当に帰っても良いのかとも思ってしまう。あの三人やスクエアの母親に、あとで文句を言われてしまう可能性もある。もしスクエアの母親に悪く思われてしまったらどうしようと……。
そんなリズの心配を察したのか、ホースが続けて言う。
「リーゼロッテ様の学園では近々、試験もあると聞きおよんでいます。スクエア様の婚約者である以上、その試験で悪い成績を取ってもらっては困りますので」
「あ、はい……そうですよね……」
ずーんとリズは落ち込んでしまう。
……そうだった、いろいろあって忘れていたけど、試験があるんだった。どーしよー……。
リズの頭に声が降ってくる。
「奥様や婚約者の皆様には私から伝えておきますので、リーゼロッテ様は今日はもうお帰りになられたほうがよいでしょう」
「あ、はい……そうさせていただきます……」
「では、そういうことで……」
話をまとめようとしたホースに、回復魔法士が口を挟んだ。
「やれやれ、あんたが伝えにいったら、誰が彼女を送るんだい? あんたが御者で、いまは他の御者も転移魔法使いもいないじゃないか」
「……そうでしたね。それでは……」
「いーからいーから、あんたが彼女を送っていきな。奥様達にはあたしゃから伝えておくから」
「……では、それで。ありがとうございます」
「いーっていーって。今夜の夕飯のおかず、一個で手を打つよ」
「…………、かしこまりました」
「やれやれ、そこは文句の一つも言うところだよ。見返り要求すんのかよ!ってね。あんたもまだまだだねぇ」
「……申し訳ありません」
「もーいーから、ほら、さっさと送っていきな」
「……かしこまりました」
ホースがドアへと向かい、リズも立ち上がろうとして……彼女に回復魔法士が耳打ちした。
「堅物で無愛想だけど、根は良い奴だから。誤解しないよーにね」
「あ……はい」
ホースがドアを開けて、振り返って言ってくる。
「リーゼロッテ様、参りましょう」
「あ、はい」
リズは回復魔法士に頭を下げると、廊下を先導するホースのあとをついていくのだった。その二人へと、回復魔法士はにこやかな顔で手を振っていた。
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