13 フランソワーズ
「わ、わたしは……」
強くありませんよ……。リズがそう答えようとしたとき、彼女の背後から呆れたような声がした。
「まったく、これだから脳筋の男爵令嬢様は困りますわね」
リズが振り返る。当然ながらそこにいたのは理知的な女性であり、もちろん言ったのも彼女だった。収納魔法から取り出したのだろう、理知的な女性はさっきは持っていなかった小振りの扇を広げて、自分の口元に当てていた。
リリアンナが理知的な女性に言う。
「誰が脳筋だって?」
「あぁら、ごめんあそばせ。おウマシカさんと言ったほうが良かったかしら?」
「このあま……」
リリアンナが怒りの眼差しを向けるが、理知的な女性は視線を合わせるのも嫌だと言わんばかりに横を向く。
……も、もしかしなくても仲が悪いのかな……っ⁉
リズが内心あたふたとしたとき、ぱんっと御者のほうから高い音がした。彼が両手のひらを打ち鳴らした音だった。
「喧嘩はご遠慮ください。スクエア様より、婚約者である皆様には仲良くしてもらいたいと仰せつかっております」
「「…………」」
御者の言葉に冷静さを取り戻したらしい、リリアンナはケンカ腰になっていたのを、再び腕を組んで壁に背をもたせかける。
「……ちっ」
「ふん……っ」
リリアンナが舌打ちし、理知的な女性も不機嫌な様子でそっぽを向いた。
御者が説明を再開する。
「リリアンナ様は、スクエア様の二番目の婚約者であらせられます。スクエア様の馬車が街の外の森のなかを走っていた際に、とある盗賊団に襲われてしまったことがあり、そのときに偶然近くにいたリリアンナ様がスクエア様を助けて、スクエア様が彼女を見初められました」
リリアンナがふふんとどや顔をするが、理知的な女性は小さな声で、野蛮な人にはぴったりの出会い方ねとつぶやいた。あまりにも小さな声で、扇で口元が隠れていたこともあり、近くにいるリズにしか聞こえなかったようだったが。
彼女のそのつぶやきを聞いて、リズはびくりっとなってしまった。……リリアンナさんに聞こえていたらどうなっていただろう……と、はらはらしてしまった。
御者が最後に残った理知的な女性に目を向けて、紹介する。
「最後に、リーゼロッテ様の対面側のソファにお座りになっていらっしゃるのが、ワトロ伯爵家のフランソワーズ様でございます」
リズがフランソワーズに顔を向けると、フランソワーズは立ち上がって、スカートの裾をつまんだカーテシーをした。
「ご機嫌うるわしゅうございます、リーゼロッテ様。ご紹介にあずかりました、フランソワーズでございます。今後ともよろしくね、うふふ」
「……は、はい、よろしくお願い、します……」
ついさっきの唐辛子入り紅茶のことなどなかったように挨拶してくる彼女に、リズは戸惑いを隠せないながらも挨拶を返した。平気で笑顔を向けてくる彼女のことを、少し不気味に思ってしまったくらいだった。
先の二人のように、御者が説明を続ける。
「フランソワーズ様は、三人目の婚約者となります。スクエア様が何人もの婚約者を決めているとのうわさを聞きつけて、自らもスクエア様をお慕い申していると、婚約者として志願し、スクエア様もフランソワーズ様とじかに会って見初められてご婚約なされました」
「きゃっ、恥ずかしいですわっ」
妙齢の淑女らしくフランソワーズが頬に手を当てる。確かにその頬もほんのりと朱が差していたが……リズは本当かな?と、少し疑ってしまった。




