10 『挨拶』
優しい言葉をかけられたからか、リズは少しだけほっとした気持ちになっていた。やっぱりこの人達もわたしと同じで無理やり婚約させられたのだろう、と。
「紅茶でもいかが? ここに来るまでに喉がお渇きになったのではなくて? 私が注いであげましょう」
「あ……ありがとうございます」
理知的な女性が手近にあったポットを持ち、腰を下ろしたリズの前にあったカップが滑るようにしてその女性の前へと移動していく。おそらくはなんらかの魔法で、手を使わずにカップを動かしたのだろう。
「さあ、どうぞ。ちょうど良い温度で、温かくて美味しいですよ」
「ありがとうございます。いただきます」
再びリズの前へと移動したカップを持って、リズはそれを口へと運んでいく。その二人の様子を、残りの二人がじっと見守っていた。戦士のようなたくましい女性は目をすがめるようにして、柔和な雰囲気の女性は固唾を飲むようにして。
理知的な女性が言うように、カップに注がれた紅茶はほどよい温度だった。だからだろう、リズはこのとき緊張感がほぐれていて、ほっと安堵した気持ちになっていた。優しい人がいて良かった……そう思ったりもした。
しかし、リズのその安心感は、カップを口元に近づけて、その香りをかいだときに裏切られることになる。ほのかに漂ってきたその紅茶の香りのなかに、なにか異質な匂いを感じ取ったのだ。
リズの動きは、まるで凍ってしまったようにそこで静止してしまった。
(これは……香辛料の匂い……? 唐辛子の匂い……?)
一人暮らしで自炊をしているリズは、それが唐辛子の匂いであることに気づいた。本来ならば、紅茶などには入れないものであることも。
そもそも、なぜこの場に唐辛子などがあるのだろうか? と。
「どうかしたの?」
「あ、いえ……」
……どうしよう、唐辛子が間違って入ってますよって言ったほうが……。リズが戸惑いながら目の前の女性に目を向けたとき、彼女は見てしまった、理知的な女性がまるで狐のような目をして口元に微笑を浮かべているのを。
そして気づいてしまった。この紅茶の唐辛子は間違って入ってしまったのではなく、なにかしらの方法で……あるいは魔法を使って……意図的に混入させられたものであることを。
「まさか、お飲みになりたくないのかしら? ワトロ伯爵家の令嬢たるワタクシ自らの注いだお紅茶ですのに?」
「……っ」
まさか……っ、とリズは思う。これは四人目の婚約者として現れた彼女への、目の前の女性からの『挨拶』だった。




