1 セカンドライフ
とある日の朝、リーゼロッテがいつものように目覚めたとき、しかし彼女は普段通りではないことに気づいてしまっていた。家族や友人からはリズの愛称で親しまれている彼女は、いま暮らしている世界とは別の世界からの転生者だったのだ。
「……女神さま……」
夢のなかで……いや、それは正確には夢ではなく、寝ている間に思い出した転生する直前の出来事であり……周囲が真っ白な場所で、とても綺麗な女性が彼女に言っていた。
『いらっしゃい。ここは死後の世界ですよ』
『え……?』
『私は女神です。単刀直入に言うと、あなたは死んでしまい、そして私が転生させることにしました』
『え? え?』
『転生後のあなたの名前はリーゼロッテになるでしょう。とある地方の街の普通の家庭に生まれます。あ、その世界の文明レベルは転生前のそれより発展してはいませんが、代わりに『魔法』などの転生前の世界でファンタジーとされていたものが存在しますよ』
『え、え、え?』
出会い頭に次々ともたらされる情報に頭の処理が追いつかず、リズが戸惑ってしまったのも仕方のないことだった。女神はそばにあった、汚れ一つない白い丸テーブルに座ると、一点の曇りもない白いカップを手にして口に運んでいく。
『ど、どういうことですか⁉』
驚くリズの問いに、女神は一口飲んだカップをソーサーに置いてから言った。
『これは私の趣味みたいなものでして、あなたはその転生条件に当てはまると思ったからです。とりあえず根掘り葉掘り聞かれるのも面倒ですし、どうせ転生した直後からしばらくは忘れているので、ちゃちゃっと転生しちゃいましょうか』
『え、え、え、え?』
『では良いセカンドライフを~』
にこやかに微笑みながら女神が指をぱっちんと鳴らし、そこでリズの意識はいったん途切れて……そして現在へと至るのだった。
「……すっごいスピーディーだった……」
上体だけ起こしたベッドの上で、ずーんと落ち込むようにリズはうなだれてしまう。ここはリズが住むアパートの一室であり、王都にある学園の高等部に通うために、両親からの仕送りを受けながら一年前に移り住んできた場所だった。
自分が転生者であることや、転生前の記憶の一部を思い出してはいた。しかし転生前の自分の具体的な年齢や、どんな理由で死んだのかなど、詳しい部分に関してはいまだに思い出せてはいなかった。
ぼんやりと、おぼろげながら覚えていることがあるとすれば……どこかのとある大学を卒業したあとに、新卒で入社した会社で毎日追われるようにして仕事に取り組んでいたことくらい……その程度だった。