第7話 最後のピース
放課後、相変わらず体調が悪い鈴野さんを心配していた裕太を見送ると、私は事件現場だという屋上の前まで足を運んだ。
この高校は4階建てで、1階には職員室、警備室、食堂がある。
2階より上には校舎の右側に教室群、左側には各種特別教室が配置されている。
屋上への階段は、左側の校舎に設けられていた。つまり犯人が屋上へ向かうには、必ずこの階段を使う必要がある。
4階まで階段を登ると、そこから屋上へと続く階段の前に規制線が張られていた。
「まぁ、そうよね」
規制線の奥に視線を向ける。
階段は折り返すようにできていて扉は見えず、突き当たりにある大きな窓から差す夕日が薄暗い階段を照らしていた。
そもそも使われない机や椅子がバリケードのように置いてあり、人の目がある中で屋上へ手首を縛った葛西くんを運ぶとすると中々に重労働だ。
やはり、8時半以降に犯行が行われた可能性が高いという豊川さんの推理は当たっていると思った。
私が無駄足を踏んだという事実だけが分かった。
私はため息をつくと、規制線に背を向ける。
「帰るか」
この辺りは生徒が寄り付かないからか、階段を下りる音がイヤに響いて聞こえた。
今日は裕太が一緒じゃないので、久々に裏門の方から学校を出る。
駐輪場の脇を歩いていると、疎らな並びから離れて一つ、隅の方に自転車があった。
なんとなく気になって近づいてみると、鍵がささったままになっていた。
埃や汚れが少ないのに荷台の端に少しだけ赤錆がついており、劣化の仕方に違和感のある自転車だ。
いやいや、私も豊川さんに毒されている。なんでも疑ってかかるのは良くないな。
自嘲気味にそっと赤錆を触ると、思いのほか簡単に剥がれた。
「あれ、錆びじゃない」
手触りが違う。
恐る恐る鼻先を近づけると──錆とはわずかに違う、“鉄のにおい”が鼻腔を刺した。
これは、錆びじゃない。
乾ききっているけれど、血の痕だ。
簡単に剥がれたから、血がついたのは最近──
「……まさか、これって犯人に使われた自転車?」
だとすると、犯行には自転車が使われたわけで・・・・・・
急いで豊川さんに連絡を入れようと携帯を開くと、既に向こうから連絡が入っていた。
『今田未海の大スクープを手に入れたわ。明日教えてあげるから期待していて』
本当に彼女は忙しない。大スクープとはいったい何のことなのだろう。
率直に話す彼女のことだ、私にぼかして伝えるということは、よほど直接伝えたい事実なのだろう。
わざわざ大スクープと言ったのだし、まさか恋愛の揉め事じゃあるまい、し?
そこまで考えた瞬間、今まで感じていた違和感が連鎖するように氷解していき、悪い想像が頭の中に駆け巡る。
犯人の目星がついた。
なぜ葛西くんを殺したのかも。
私の推理が正しければ葛西くんは浮気をしていた。しかも物証まである。
全てが噛み合った感覚が、言いしれない快感に変わっていく。
この時の私は本当にどうかしていたと思う。
なぜなら、警察に連絡を入れて自転車の件だけを伝えることにしたのだから。




