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第5話 とある女学生の一日その四


その日、午後最後の授業は体育だった。


四チームに分かれてそれぞれのチームとバスケをするというありきたり内容だったが、小柄こがらな私にとって楽しい要素は一つもなく。


途中で気持ちが悪くなってトイレに駆け込んだ鈴野さんを追いかけて授業を抜け出す事にした。


トイレに入ると端の個室から嗚咽おえつの音が聞こえてきた。


今朝の惨状さんじょうを思い出してというには、その声は余りにも苦しそうで、ノックをして声を掛けた。


「湯川だけど…大丈夫? つらいなら先生に言って保健室に行った方がいいんじゃない」


「……だ、大丈夫。一回吐けば気持ち悪さはなくなるから」


言っていることとは裏腹に、鈴野さんの息は荒い。


さっきまで5分くらい休んだら授業に戻ろうかと考えていたが、今の鈴野さんを放っておくと第二の死亡事故になってしまうのではという思いが、私の胸の内に生まれた。


「そう。じゃあ体調が悪くなったらいつでも言ってね。実は私も休みたくてここに来たから」


「うん。わかった」


その後、彼女は10分ほど経って個室から出てきた。


それでも鈴野さんの顔色が悪かったので、私は口をゆすぐ彼女の肩を支えて少しでも負担が減るようにつとめた。


このとき、少し意外だったのは彼女が香水をつけていたことだろうか。


二人で戻ると丁度ちょうど授業が終わる頃だったらしく、同じチームだった女子から冷めた視線を感じつつも無事に授業を終えることができた。


しかし、合同授業ということもあって授業後の着替えは混沌こんとん様相ようそうていし、れた汗の臭いと消臭スプレーや制汗せいかんシートの香りが混ざりただよう室内は余り長居ながいしたい場所ではない。


案の定、鈴野さんは気持ち悪さをにじませた顔で覚束なく着替えていた。


近くで着替えている今田さんやその取り巻きの女子たちは知らん顔で平然としている。


周りの女子も今田さんに同調してか、意識して距離を離して着替えている。


私はそんな彼女を見ているのもしのびなく、最後まで彼女の着替えを手伝った。


そして着替えが終わった後、私は違和感を感じていた。


しかし、それが何なのか気付く前に昼休みを告げるチャイムが鳴り響いてしまった為に、私は重大な事実に気が付く機会を逃してしまった。


放課後になる頃にはクラスでの騒ぎも一旦は落ち着き、各々の部活に向かっていった。


クラスの大半が、この転落死事件は段々と風化ふうかしていくものと思っていた。

しかし、3日後。警察は現場の状況と被害者の詳細しょうさいを報道した。

そして、驚くべき速さで犯人が明らかになることになる。


しかしこの時の私には、探偵役になるつもりはこれっぽっちもなかった。

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