うちの執事はドM 04
「エルザ嬢、今日もお美しいね」
「お戯れを、アーティー様」
エルザの家で行われているパーティー、国の重鎮、公爵家、王族、その他諸々が集まるパーティーにエルザはお客の相手に勤しんでいた。
そこに声をかけたのが、ウィズリム家と並ぶルシアル公爵家の長男である、アーティー・ドルテ・ルシアル。
鮮やかな赤髪を束ね、ゆらりと優雅に揺らし、大きなマントを肩に羽織りつつ片手には真っ赤なワイン。 美しき笑顔でエルザを見詰めるその横で、カイルが眉間に皺を寄せて話す。
「おい、アティ、俺の婚約者口説こうとすんなよ」
「口説いてないよ、ただの挨拶だろう?」
「カイル様もアーティー様も程々になさって下さいませ」
エルザとカイルに加え、アーティーも幼馴染であった。三人揃えばなんとやら、くらいに周りは悪悪しい見た目なのだが、見た目に反して優しいや正義感等に溢れた人物達である。
この国の者達は、三人が素晴らしい人物だと認識をしているが、他国はまだ見た目くらいしか知らない為に、他国から見た三人は裏でこの国を操る三人だ、と勝手に妄想をしていた。
「今日はアレいないのか、エルザ」
「…アレでございますか?アレとは…」
「カイルの言うアレは、エルザ嬢のところの執事じゃないかい?」
遠巻きに見る周りの人達は、三人の会話はさぞかし優雅だろうと妄想するが、事実はエルザの家に支える執事の事であった。
「ラングルは我が公爵家の執事、こちらの会場を取り仕切っておりますわ、私の傍には何かない限りお父様の近くに居るとは思いますけれど」
「あいつ、何か無くても来そうじゃね?割りと、エルザの専属でもあるだろ?つーか、アレがエルザ以外に支えるとか想像つかねーわ」
「確かに、彼はいつもエルザ嬢に付き従ってるイメージだね。片時も離れたくないみたいな意思と、あとは、彼の性癖というか……ね?」
「……そんな事はないですわ」
他愛ない話をしている最中、それは起こってしまった。 ふらふらと、ワイングラスを片手に令嬢が三人の居る場所へと近寄って行く。
彼女の足は千鳥足、かなり酔っ払っていると分かる。 そんな彼女、案の定足がもつれ、すっ転びそうになり、何とか転ばなかったが、手に持っていたグラスを手離し、あろう事かエルザのドレスに真っ赤なワインをぶちまけてしまった。
この間、数秒な出来事。
途端に上がる悲鳴に、ワインをぶっかけられて立ちつすくエルザ、そして急に何処からともなく現れた最強執事のラングル。
令嬢を押し退け、倒れる令嬢を横目に四つん這いになるラングル。その姿に、目が点になるカイルとアーティー、そして困った顔でラングルに話し掛けるエルザ。
「何をしているのかしら、ラングル、ご令嬢を押し退けてはいけないわ、貴女、大丈夫かしら?」
四つん這いになるラングルを嗜めつつ、尻餅をついた令嬢に手を差し伸べるエルザ。
「……御嬢様、発言をお許しいただけますか?」
「……そうね、構わないわ」
令嬢の手を取り、笑みを見せながら令嬢を立たせつつ、四つん這いの儘のラングルが、いつもの台詞を言い問い掛ける。
「御嬢様、何故ですか?折角のパーティー、折角の綺麗なドレス!それを汚されたのなら悪役令嬢っぽくパーティーを台無しにした令嬢をこの場所に招き入れた私に『貴方のせいで恥をかいたじゃない!この駄目執事が!』と言いながらケツ、じゃない、背中を足蹴りするのが通りでございます!」
「しないわ、ラングル。ドレスよりも先ずは令嬢を介抱するのが先ですわ、ドレスは洗えば良いだけの事よ」
「つーか、万が一にも足蹴りするなら、ワインぶっかけた令嬢になるんじゃねーのか?」
二人のいつものやり取りを眺めていた王子カイルが、ど正論っぽく言葉をかけると、ラングルは顔を上げ必死な表情を向ける。
「そんな勿体ない事を、私がたかが令嬢にゆずる筈がございません!御嬢様!さあ!ご令嬢ではなく、私に足蹴りを!さあ、さあ!御嬢様!!」
「しないわ、ラングル。それより、メイドを呼んで来て頂戴、ご令嬢には酔い醒ましを」
パーティー会場で叫ぶラングルをいつも通り正論をぶつけ、テキパキと動くエルザ。 この国の住人はいつも通りか、とまた直ぐに普段の形へ。
他国の住人はかなりどん引きしつつも、周りの普段通りさに何も言えず視線を外し、先程のパーティーの賑やかさに戻っていった。
残された、四つん這いラングル、王子カイル、公爵家長男アーティー。
「御嬢様は放置プレイだけは、得意なんです」
ぽつり、と呟いたラングルに、二人は同じタイミングで、絶対違うな、と心で思ったようだった。