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千四百年の夜を越えて、君と~古都に咲く鎮魂の恋~  作者: 銀 護力(しろがね もりよし)
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Chapter 8 黒いコートの男の正体

 十一月中旬も半ばを過ぎた頃、奈良の朝晩の冷え込みはいっそう厳しさを増した。卜部琴音の病状は一向に回復せず、医師からは「あと数日ももたないかもしれない」という厳しい言葉すら囁かれ始めている。

 穂積健吾は、石上神宮で見せられた衝撃的な幻視——物部守屋と蘇我馬子の戦乱の記憶——を胸に、必死に破邪の力の手がかりを探していた。しかし、一方で病院に足を運んでは、刻一刻と衰える琴音の姿に絶望感を拭えずにいる。

________________________________________

1. 奈良市内の朝、冷たい告知

「……血液検査の結果は、特に目立った異常が見られないのですが、全身状態がどんどん悪化しているんです」

 担当医・坂下が、病院の会議室でモニターを示しながら説明する。健吾は隣に座る静香と佐久間和彦を横目に、息を飲んでいた。

 モニターには琴音の各種数値が並んでいるが、そのどれもがじわじわと悪化傾向を示している。貧血、体力の消耗、心拍の乱れ——原因が特定できないまま、身体が壊れていくような様子だ。

「つまり……このままだと、あと数日も持たないってことですか?」

 静香の声が震える。坂下は苦しい表情を浮かべ、「すべてがそうなるとは限りませんが、危険な状態であることは変わりません。僕たちも集中治療をしているんですが、正直手立てがないんです……」と唇を噛む。

 健吾は机の縁を握りしめ、「ほかの専門病院へ転院とか、何かできませんか?」と食い下がるが、医師は苦い顔をするばかり。

「医療連携のあらゆるルートを当たっていますが、どこも同じ意見です。『原因不明の衰弱』では、適切な対処法が見つからない。すみません……」

 謝罪の言葉とともに会議室を出ていく坂下。その背中に絶望感が漂う。

 静かになった部屋に、佐久間がむずがるように息を吐く。「くそ……医学でも手詰まりかよ。俺も調べたけど、国内に似た症例がほとんどないんだ」

 静香は目を伏せ、「呪いだなんて馬鹿げてると思ってたけど……本当にそうとしか思えない」と涙声をこぼす。

 健吾は唇を噛んだまま、「俺……石上神宮で教わってる破邪の術をもっと急がないと」と呟く。琴音の命の砂時計が刻々と減っているのを感じ、焦燥が胸を焼く。すると佐久間が、いつになく真剣な眼差しを向けてきた。

「わかった。お前は神社とかそっち方面を頼む。俺は引き続き、医学的なアプローチでしつこく情報を洗う。静香さん、そっちもいいですね? 一刻も無駄にできないから」

「ええ……もちろん。どうか、どうか琴音を助けてやってください」

 まるで戦場の作戦会議のような空気が漂う。健吾は決意を固め、佐久間と一度視線を合わせて力強く頷いた。


2. 病室の前に立つ黒い影

 午前中の面談を終え、健吾が廊下を急ぎ足で歩いていると、どこからか冷たい視線を感じて思わず足を止める。誰かに見られている……。

 振り返ると、少し離れた病棟の通路に、見覚えのある黒いコートの男が立っていた。静かに、しかし異様な存在感でこちらを見つめている。

(あの男……! 前にも病院で見かけた、不気味な奴だ)

 健吾の背筋に戦慄が走る。なぜこの男が琴音のいる病院に何度も姿を現すのか。偶然にしては不自然すぎる。

 いつもなら声もかけられないほどの圧を感じるが、琴音が瀕死の状態にある今、怯んでいる暇はなかった。思い切って足を向けると、男は口の端をわずかに歪ませ、コツコツと靴音を響かせながら近づいてきた。

「お前……何のつもりだ? この前も廊下にいて、琴音を見つめてたよな。何が狙いなんだ!」

 健吾が怒りをこめて詰問すると、男は軽く顎を上げて冷笑する。浅黒い瞳が、まるで獲物を値踏みするかのように細められた。

「狙い……? そうだな。言うなれば『復讐』か。俺にはまだやるべきことが残っていてね」

「復讐……?」

 健吾は眉を寄せる。男の言葉には妙な古臭さというか、時代錯誤な響きが混ざっている。一体何と戦っているのか、この現代において。

「まさか……琴音の病と関係してるのか? お前が何かしたのか!」

 叫びたい衝動を抑えきれず拳を握るが、男はまるで子供を見るような目で鼻先を鳴らす。

「俺の目的は、物部の血を断つことだ。もちろん、穂積も同祖なら同罪だろう。一挙に消すまで……この恨みは晴れないさ」

 物部、穂積、恨み——聞き慣れない単語が連なり、健吾の頭が混乱する。ただ一つわかるのは、「こいつは琴音を殺す気でいる」と言っているに等しい。

「ふざけるな……琴音は今、苦しんでるんだぞ。お前……何者なんだ!」

 声を荒げる健吾。すると男はゆっくりと口角を上げ、まるで招かれざる客を楽しむように薄笑いを浮かべる。

「……名乗ってもいいだろう。俺は石川龍馬いしかわ・りょうま。もっとも、その名は仮初めのもの……本質は、蘇我馬子そがのうまこ。千四百年前、物部を滅ぼしたはずだったが、完全に断ち切れなかった……その代償で蘇我氏は滅んだ。それが悔しくてならないのさ」

「……蘇我馬子? そんな馬鹿な!」

 健吾は呆れに似た動揺を露わにする。蘇我馬子は飛鳥時代の豪族で、645年の乙巳の変より前に亡くなっている人物——そんな歴史の授業レベルの知識しかないが、それが現代に転生しているというのか。

 龍馬はあざけ笑うように唇を歪めた。「お前に信じろとは言わないさ。だが、俺は蘇我氏再興のために転生を繰り返してきた。そしてこの奈良の地で、最後の仕上げをしに戻ってきたんだ。物部を生かしたことが蘇我の破滅を招いた……だからこそ、今度こそ根絶やしにしてやる」

「お前……正気じゃない。そんな荒唐無稽な話、受け入れられるわけが……!」

 龍馬はコートの襟を正し、あたりを見回す。病院スタッフが遠巻きに何事かと様子を伺っているが、彼の眼光に気圧されて近づけない。

「正気かどうかは関係ない。俺はこの国を握っていた蘇我氏が、物部を滅ぼしきれなかったせいで乙巳の変で滅び去ったのを憎んでいる。血は絶やさなきゃならない……卜部琴音も、穂積健吾も同じ。お前らの先祖が生き延びたばかりに、蘇我が失墜したんだからな」

 健吾のこめかみが熱くなる。まさか琴音の命を奪おうとする張本人が、こんな形で目の前に立っているとは。

「やめろ……琴音には手を出すな。もし関わってるなら、今すぐ治せ!」

 声を荒らげる健吾に、龍馬は挑発するように薄笑いを浮かべる。

「治す? そんな慈悲があると思うか? あの娘は勝手に衰弱して死ぬだろうよ。仏教に抗した罰だ……物部は血を残すに値しない。お前もいずれ始末するさ」

 あまりに苛立ち、健吾は拳を握りしめて一歩踏み込むが、龍馬は微動だにせず、鋭い視線を返すだけ。

 「無駄だ。まだお前には力がない……せいぜい足掻くがいいさ。まもなく残された日数も尽きるだろうからな」

 その言葉を最後に、龍馬は踵を返して堂々と廊下の奥へ歩み去る。健吾は彼の背中に何かを言おうとするが、看護師が「すみません! 廊下での大声は……」と制止に入ってきて、行く手を阻まれてしまう。

 結局、龍馬はエレベーターホールへ姿を消していった。


3. 極限の告知と健吾の決意

 龍馬が去ったあと、健吾は肩で息をしていた。背筋にじっとりと汗が滲んでいる。

(蘇我馬子の転生……? そんな夢みたいな話、あり得ないって言いたいのに、こいつらの呪いが現実に琴音を蝕んでるんじゃないか……)

 そのまま血走った目で病室へ駆け込むと、静香が真っ青な顔で立ち上がる。「健吾さん……どうしたの、そんな怖い顔して」

「今……黒いコートの男がいて、琴音を……つまり物部を滅ぼすとか……わけのわからないこと言ってた。やっぱり何か仕掛けてるんだ。呪いだか怨念だか知らないけど……!」

 静香は息を呑むように震える。「そ、そんな馬鹿な……でも、確かに琴音が倒れたときから、あの男をちらちら見かけるって話を聞いて……」

 二人のやりとりの背後では、酸素チューブや点滴に繋がれた琴音が、うわ言のように微かな声を漏らしている。モニターの音が不規則に波打ち、医師が再度検査をするため出入りを繰り返していた。

 やがて坂下医師が申し訳なさそうに姿を現し、「すみません、また深くなりそうな話ですが……」と切り出す。

「正直なところ、今夜が峠かもしれません。あまりにも衰弱が激しく、最善を尽くしていますが、奇跡的な回復が起こらない限り、持たない可能性が高い……」

 その言葉に静香は膝から崩れ落ちそうになり、健吾が肩を支える。

「そんな……まだ数日はあると思っていたのに……」

「すみません……私もここまで急に容体が落ちるとは考えていませんでした。深夜に急変すれば、救命措置すら効果がないかもしれない……」

 医師の言葉が突き刺さり、病室は重苦しい沈黙に包まれた。健吾の頭には龍馬の嘲笑が蘇り、怒りで胃が焼けそうになる。

(こんなところで諦められるか……! 卜部家の呪いだとしたら、解いてやる。石上神宮の破邪で、絶対に……)


4. 佐久間のサポートと作戦

 静香が震える手で琴音の額を撫でていると、廊下のほうで足音がし、佐久間が顔を出す。彼は険しい表情ながらも、どこか決意を秘めている。

「健吾、少しいいか。……実は俺、県外の国立病院やレア疾患専門のクリニックに片っ端から打診してるんだ。正直『今すぐ転院』は無理でも、いくつかの研究医が興味を示してくれた。もし既存の病名と判明すれば、一筋の光があるかもしれない」

 健吾は小さく頷く。「ありがとう。俺は逆に……黒いコートの男の正体が ‘蘇我馬子の転生’ だなんて信じがたいが、どうも本気で琴音を狙ってるようだ。……だから石上神宮で、破邪の術を習い続けるしかないんだ」

 佐久間は少し苦笑いしつつも、「分かった。オカルトじみてるけど、この状況じゃ何に頼ってもおかしくない。病院のことは任せろ。お前は神社ルートを死に物狂いでやれ。二方面で同時にアクションすれば、どこかに打開策があるかもしれない」

「助かる……。龍馬って男は、どうやら物部や穂積の血を一掃しようとしてる。琴音は言わばターゲットだ。だから一刻も早く ‘呪い’ を断ち切らないと……」

 佐久間は肩をぽんと叩き、「お前が諦めない限り、奇跡だって起きるさ。琴音ちゃんが死ぬなんてあり得ない。俺もまだ粘ってみる」と微笑む。その優しさが健吾の胸をじんわり温めた。

(間に合え……鎮魂祭まではあと数日しかないけど、何とか琴音が生き延びてくれれば、俺は必ず破邪の力を身につけてみせる)


5. 龍馬の闇

 一方、その日の夜、奈良市内のビジネス街にあるビルの一室。そこでは黒いコートの男——石川龍馬が薄闇の中、パソコンと古文書の山を前にしていた。

 部下らしき藤堂とうどうという男が、テーブルに並ぶ紙資料を整理している。「龍馬さま……あの卜部琴音という女性は、もう病院で死にかけの状態だとか。わざわざ呪詛を完成させる必要もないのでは?」

 龍馬は低い笑みを浮かべ、書類の一枚を指で弾く。そこには「物部」や「穂積」といったキーワードが散見され、注釈が細かく書き込まれている。

「慎重に事を運ぶ。どんなに死にかけでも、確実に息の根を止めるまで気は抜けない。物部を完全に葬るのが蘇我馬子たる俺の使命だ……。昔、丁未の乱であれほどの血を流したのに、しぶとく子孫が残ったせいで、乙巳の変で我が蘇我氏は滅び去ったのだからな。生き残った物部が中大兄皇子と中臣鎌足と通じて、裏で手引きをしていたのはわかっている。その恨みは忘れん」

 龍馬の瞳には狂気の光が宿る。その口から語られる古代の出来事は、自身の体験としか思えないほど具体的かつ憎悪に満ちている。

「馬子様……今度こそ、物部も穂積も根絶やしに……そして、蘇我が再興を果たすのでしょうか?」

 藤堂の問いに、龍馬は嗤うように頷いた。「ああ、かつて仏教を導入し物部を叩き潰した蘇我馬子の力は、現代でも通用するさ。文明の形が変わっただけで、本質は同じ……。俺がこの奈良で ‘最後の呪詛’ を完成させれば、歴史の因縁は断ち切れ、蘇我が甦る——この国の支配者となれるだろう」

 机上には小さな護符が何枚も重なり、電子ファイルの画面には不気味な図形が映し出されている。古の呪術と現代のテクノロジーを融合させたかのような、異様な光景。

 龍馬は窓の外を見下ろし、冬近い夜景に笑みを溶かす。「やがて、鎮魂祭の日が来る。そこで全てのけりをつける。あの愚かな物部の末裔どもに、もう一度地獄を味わわせてやるさ……」


6. それぞれの道へ——追い詰められた時間

 その深夜、病室では琴音が苦しげに浅い呼吸を繰り返し、静香が水を口元に運んでやる。「少しでも飲めたら……苦しい? ああ、もう……どうしてこんな……」

 看護師がバイタルサインを測り、「急に熱が上がっています。いつでも呼べるよう、ナースコールを押してください」と言い残して去る。

 ベッド脇に座る静香は、鬼気迫る表情で「琴音、死んじゃだめよ……。あなたまでいなくなったら私は……」と、必死に声をかけるが、琴音はかすかに瞳を開くものの、言葉にはならない。

 一方、病室の外で健吾は佐久間と短く言葉を交わす。「あの黒いコートの男、 ‘石川龍馬’ って名乗った。蘇我馬子の転生だって……正気の沙汰じゃない」

 佐久間は腕を組み、唇を曲げる。「そうか……名前まで判明したのか。それを警察に言っても取り合ってくれなさそうだが……一応不審者として警備に頼めないか?」

「そうだな……でも、相手が普通じゃない。警備に声をかけたところで止められるかどうか。とにかく俺は石上神宮へ行って破邪を学ぶ。琴音が死ぬ前に、この呪いをどうにか解きたいんだ」

 佐久間は苦い笑みを浮かべ、「お前の覚悟は分かった。俺も昼間のうちにできる限り調べてみる。お前は夜でも病院に来てやれ。絶対、こいつに気を抜くなよ」と肩を叩く。

 残された時間はわずか。琴音の命の火が消える前に、呪いを解く手段を掴むことはできるのか。

 黒いコート——龍馬=蘇我馬子の転生体は「鎮魂祭の日」を狙っていると健吾はうすうす感じていた。石上神宮で十一月二十二日に行われる古式の祭礼。そこに何か決定的な衝突が待つのは間違いない。

 (早く、力を……破邪の術を俺のものにしないと、琴音が……)


7. 病室での再会、愛ゆえの誓い

 翌朝、健吾はまだ安定しない琴音を見舞うため、病室に入る。静香が仮眠を取っている横で、彼はベッド脇の椅子に腰を下ろす。

 薬で浅く眠っている琴音のまつげがかすかに震え、「……けん……ご……さん……」と微かな声を絞り出す。

「琴音……無理するな。大丈夫か?」

 優しく手を握ると、彼女は弱々しく首を横に振り、「……私……ほんとに死んじゃうのかな……って……怖いの……」と涙を滲ませる。

 健吾の胸がぎゅっと締めつけられる。言葉が詰まるが、それでも絞り出すように言う。

「死なない。絶対死なせない。俺……石上神宮で破邪の術を学ぶから。あいつ……石川龍馬とかいう変な男が何か仕掛けてるんだ。俺はそれに対抗して、お前を守るよ」

 琴音はうわごとのように、「……ありがと……でも、あなたまで巻き込まないで。私、いつ死んでも不思議じゃないし……」と呟く。

 健吾はその言葉に強くかぶりを振った。「馬鹿言うな。巻き込まれてもいい。お前が生きてくれるなら、俺は何でもする。……だから、最後まで諦めないでくれ。頼む……」

 ほんのわずかだけ、琴音の口元に微笑の形が浮かぶ。「……うん……」

 か細い呼吸の音が病室に響き、朝日の差すカーテン越しに埃の粒が舞う。健吾は琴音の手の冷たさを感じながら、闘志を燃やす。

(絶対に助ける。俺はもう何も失いたくない。龍馬がなんだろうと、呪いを断ち切ってやる)


8. 破局の足音

 病院の廊下を出ると、佐久間が待っていた。「どうだ、琴音ちゃんは?」

「まだ危ない。医者も明日、明後日が正念場だって……。俺は今から石上神宮へ行って、道忠宮司に破邪の術を教わる。数日後には鎮魂祭もある。そこが勝負所だ」

 佐久間は何度もうなずき、「オーケー。こっちも医療面で足掻き続ける。龍馬とかいう怪人物にも警戒する。もし病院で妙なことが起きたらすぐ連絡するから、気を付けろよ」と真剣な目を向ける。

 健吾は深く頷き、足早に出口へ向かう。心の中には不安と怒りが渦巻いていた。黒いコートの男——石川龍馬=蘇我馬子の怨念が本当にこの時代に生きているのなら、もう一度物部を滅ぼすつもりなのか。

 (琴音が死んでしまうなんて、絶対に許さない……)

 奈良の冷えた空気が外套の間から入り込んで身を震わせる。空は曇天で、やがて冷たい雨を落としそうだ。健吾は自分を奮い立たせるように息を吐き、タクシーに乗り込む。

 向かう先は石上神宮——そこでは、十一月二十二日の鎮魂祭に向けた準備が佳境を迎えようとしている。宮司の道忠や巫女の沙弥香が待つ神域で、健吾は破邪の術を習得するため日々を費やすのだろう。

 琴音が救われるかどうか、まさに瀬戸際の戦いが迫っている。龍馬という絶対的な悪役の登場によって、事態は一気に破局へ向かう足音を高めていく。

 ——あと数日で、すべての決着がつくのかもしれない。

 風が木々を揺らし、晩秋から初冬へ移ろう奈良の街が、静かにその覚悟を受け止めるように見えた。そして病院の四階、琴音が眠る病室には、切ない息遣いだけが響き続ける。

 彼女の命を繋ぐため、健吾は龍馬との対峙を避けられない運命を受け入れる決断をする。果たして蘇我馬子の狂気を止められるのか。それとも、呪いが再び悲劇を生むのか——波乱を孕んだまま、夜の奈良へと時間が流れていくのだった。


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