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変人少女は青春の嵐を引き起こす  作者: 最上優矢
第三章 お見合い大作戦

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修羅場

 翌日の朝。

 東城高校二年一組の教室にて、前代未聞の修羅場が起きていた。


 それは奏の許嫁、裕貴を巡る奏と美麗による女同士の修羅場だった。


 奏は狂ったようにケラケラと笑いながら、黒板消しを黒板に何度も叩きつける。

 舞った白い粉は、奏と美麗の顔や身体にかかった。


 美麗は顔やブラウスにかかった白い粉を払い落とすと、意地悪そうな笑みを浮かべた。


「残念だったな、北埜。……とまあ、そういうわけだ。

 貴様の許嫁である喜多とあたしは、今度の土曜日に、お見合いをすることになった。無論、これは喜多も了承済みだ。

 ――分かるか、北埜。貴様はな、人間としても女としても、このあたしに惨めに負けたんだ。

 喜べ、そして絶望しろ。……永遠に苦しめ」


 奏は白い粉に盛大にむせるが、それでも狂気に満ちた笑みは、彼女の顔から消えることはなかった。


「……ふふっ、消費期限切れで腐り始めの卵ちゃんが何を言うかと思えば、ね。

 ――ねえ、竹原教諭? 教え子の許嫁に手を出すなんて、あなたはもはや腐り切っているではないか!

 さすがのわたしも、あなたという卵をゴミ箱に投げたくなったよ」

「文句なら、あちらの席であくびをかいている貴様の“ダーリン”にでも言うんだな」


 美麗は暇そうにあくびしている裕貴を、遠くから指差した。


 奏はゆらりゆらりと美麗のそばから裕貴のそばに近寄り、

「元気かな、ダーリン。ねえ、元気かな、ダーリン……?」

 と裕貴の席に黒板消しを叩きつけた。


 裕貴はたじろぐこともなく、爽やかな笑みで「なんだね、ハニー」と余裕そうに軽口を叩いてみせた。

 少々の沈黙のあと、奏は裕貴の頬に平手打ちをお見舞いする。


 ……教室に入るなり、それらを目撃した凪は、静かに引き戸から自分の席に座った。


「見ない見ない……見ない見ない」


 凪は誰とも顔を合わせないよう、まぶたをギュッとつむった。

 と、そのとき、凪の肩を誰かが叩いた。


 クラッとするような甘い香水の香り。

 それだけで、凪は自分の肩を叩いた人物が琉歌だということに気づいた。


 しかし、それでも目を閉じたまま、凪は反応することはなかった。


 その凪の目を覆い隠す誰かの手。


「だーれだ?」


 古典的な手法だと、凪は苦笑する。


「そりゃあもちろん、琉歌さんでしょう?」

「ふふっ、不正解」

「えっ?」


 凪は覆い隠す手をどかし、後ろを振り返る。

 そこにいたのは琉歌と――。


「オエッ、この手は彰人くんか……」

「その通りだが、遠山氏。いかがいたした?」


 琉歌と彰人、その二人がいた。


 そのとき初めて、凪はイタズラを仕掛けられたのだと気づいた。


 凪はため息をつき、「イタズラは程々にしようね、二人とも」とイタズラッ子二人に注意をした。


 彰人は頭をポリポリと掻き、「いやはや、面目ない。年甲斐もなくイタズラというものに手を染めてしまった。許したまえ、そして見逃したまえ」と真顔で謝った。


 琉歌は舌をペロリと出し、「ごめんね、つい状況が状況なだけに……やってしまったの」と奏と美麗のほうに視線を向け、恨めしそうに二人をにらんだ。


「だって、こんなギスギスしていたら、誰だって嫌でしょう? せめて凪くんの心だけでも癒やそうかなって、彰人くんと二人で考えたの」


 それだけで凪の心は癒やされたし、明るくもなれた。


「ありがとう、琉歌さん」

「おれもいることを忘れるな、遠山氏」

「……ありがとう、琉歌さんとその愉快な仲間」

「おのれっ!」


 彰人が目をむいたところで、琉歌が声を潜めながら凪と彰人にささやいた。


「二人はさ、好きな人とかいないの?」


 とっさに凪は美麗と言い争い真っただ中の奏をチラリと見てから、「いや、いないよ」と首を左右に振り、至って冷静に言葉を返した。


「ふうん。――彰人くんは?」


 琉歌は彰人のほうにも聞くが、凪と同じように彼も首を横に振った。


「いない。……が、強いて言うなら、ペンギンの抱き枕のペンジャミンといったところか」

「そういう名前だったんだね、ペンギンの抱き枕……」


 凪は目に涙を流し、彰人にハグをした。


 それを見ると、琉歌は「見ない見ない……見ない見ない」とこの場から退散。


 一時限目の授業開始のチャイムが鳴ってもなお、奏と美麗による修羅場は続くったら続く。

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