女同士のバトル
ショッピングモール「グランド」には、バスを使って向かった。
広めの出入り口を通り、そこから「グランド」に入る凪と悠奈。
「グランド」は一階から四階まで吹き抜け空間になっており、様々なテナントが入居していた。
まだオープンしてからそんなに日が経っていないので、店内は傷や汚れなどといったものは少なく、開店の頃と同じようにキレイだった。
凪はキョロキョロと見回す悠奈の肩を叩くと、「どこに行きたい?」と訊いてみた。
悠奈は振り向くなり、「カフェ!」と上機嫌に叫んだ。
凪はうなり声を上げる。
「カフェは……うーん、それは最後にしようか」
「正気か」
「カフェは最後に寄るものだと相場が決まっているからね」
「誰が決めたのじゃ?」
「わしじゃよ」
「なんと……!」
凪はカラカラと笑うと、まだ笑みが残った表情で「……で、どこに行きたいの?」と尋ねた。
悠奈は満面の笑みで答える。
「メイドカフェ!」
と。
凪は深呼吸をし、心を落ち着かせる。
そして悠奈にこう告げた。
「メイドカフェはね、悠奈……ここにはないんだよ」
「なんと!」
「それはこっちのセリフだよ。メイドカフェは、ここにはないんだ、残念ながら」
「それは……悲しいであるな」
「うん、ぼくはそんな無邪気な悠奈と一緒に『グランド』に行けて、本当に嬉しいよ」
凪は照れを隠すように、顔をそらしながら心の底を打ち明けた。
「ほう……それは大いに結構」
今度の悠奈は素に戻らなかったが、それでも嬉しそうにはにかんでいた。
凪は満足げにほほ笑むと、「さて……どこに行きたい?」と先ほども言った内容を繰り返した。
悠奈は答える。
「魔界ショップへ」
まさかの変化球。
思わず凪は咳きこんだ。
そしてこのような結論を出す。
「よし、とりあえずファンシーショップへ行こう」
「うむ!」
ようやくその場から動き出した凪と悠奈。
そんなときだった。
「あっ、タコさんじゃないっスか」
ばったりと――凪たちは叶夢に出会った。
凪は「あらま、叶夢さん」と気まずく声を上げた。
悠奈は「おお、赤髪姫!」と愉快そうに叶夢に手を振った。
叶夢は「んんっ、このイタイ女は誰っスか?」と悠奈を凝視。
凪は苦笑すると、叶夢に悠奈のことを教えた。
「ぼくの妹だけど、何か?」
叶夢は見るからに驚き、「妹……? ははっ、まさかね」とバカにしたように悠奈を見る。
そのとき、その瞬間――悠奈と叶夢、その女同士のバトルが始まった。
「ふむ、そなたは育ちが悪いとみた」
「それはお互い様っスよ、イタイさん」
「自己紹介、ご苦労であった。そしてネーミングセンスが絶望的であるな、非常に哀れみを抱く」
「哀れみっスか……それ、風燐中学校の制服っスよね?」
「そうであるが?」
「なんスか、その飾り。そんなファッションセンス、ドブにでも捨てたらどうっスかね。めっちゃ哀れっス」
「そういう人を傷つけることしか言えないそなたには、このファッションセンスの良さには気づけまい」
「何はともあれ、そんなファッションセンスの良さは分かりたくないっスね」
「ふむ……!」
「うっす」
「闇の魔王から授かりし闇の眼銃でも食らうか?」
「受けて立つっスよ。この『赤髪のクック』こと、馬場叶夢の死のパンチでも食らうっス……!」
凪はえへんえへんと咳払いをする。
「暴言、それに中二病はそれまでにしようか、二人とも……きみたちはたった一学年しか違うんだから、仲良くしようね」
悠奈と叶夢、それぞれ目を丸くし、互いに顔を見合わせる。
「一学年……?」
「たった一学年しか違うのに、余よりもこんなに情けなく幼稚、だと……?」
「いやいや、どこで道を踏み外したら、こんなふざけた中学生になるんスか」
「うーむ、なんて将来が絶望的な……これでは将来、道を踏み外すに違いないではないか」
「かわいそうに」
「哀れな」
「潰す」
「倒す」
凪は大慌てで二人の手を取ると、無理やり握手をさせた。
「仲良くね……? 潰さないし、倒さない」
「絶対に潰すっス……!」
「必ず倒そうではないか……!」
凪は目を閉じると、それからフッと笑った。
「さて、カフェにでも行くか」
凪は悠奈と叶夢に構わず、エスカレーターに向かって歩き出す。
途端に、悠奈はショックを受けたように「兄上!」と叫んだ。
凪はピタリと足を止めると、苦笑しながら後ろを振り返った。
「余を置いていくな、余は兄上とともにある……いざ、ファンシーショップへ!」
叶夢は「ファンシーショップ?」と目を輝かせた。
「あたいも行くっスよ、ファンシーショップ!」
悠奈はギョッとする。
「何ゆえ!」
「えっ? いや……行きたいから行くだけっスよ。それが何か?」
「そなたは行くな、そなたはメリケンサックでも買うがよい」
「間に合ってるっス」
「なんと、それはおっかない」
悠奈は身を震わせ、さりげなく凪のほうに近寄った。
ついに凪は声をイラつかせ、「で? ファンシーショップに行くの? 行かないの? どっち」と選択を迫った。
悠奈と叶夢は同時に叫んだ。
「行く!」
「行くっス!」
「なら、行こう。すぐ行こう」
凪は悠奈と叶夢を引き連れて、三階にあるファンシーショップへと向かおうとした、そのとき。
凪の頭上から、一枚の小さな紙がヒラヒラと落ちてきた。




