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変人少女は青春の嵐を引き起こす  作者: 最上優矢
第三章 お見合い大作戦

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合宿についての話し合い

 放課後になると、二年一組の教室では「東城交流の会」メンバーが席につき、避暑地への合宿について話し合いが繰り広げられていた。


 顧問の美麗は凪たち六名を順に見てから、それまでの話をまとめた。


「――今回の避暑地への合宿参加メンバーだが、会長の黒原と副会長の遠山、総務の北埜、特別参加として遠山の妹の悠奈、そんでもって顧問のあたしと元顧問の卯月先生……その六名だな。

 で、島崎と青柳と喜多は予定があるとのことなので、その三名は不参加とする」


 そのとき、凪は裕貴が小さな声で「もっとも、わたしの場合は保護者からの猛烈な抗議で致し方なく、だがな」と不満げに声を上げるのを聞いて、思わず噴き出すところだった。

 続いて、琉歌も独り言のように「はいはい、どうせわたしは西倫女子高等学校のお嬢様……元の学校から合宿には参加するなと脅されるなんてさ、あんまりだよ」とぼやくのを聞いて、思わず泣き出すところだった。


 そんな凪の様子でも見ていたのか、桜が「タコっち、大丈夫ですか……?」と若干引いたように凪を心配した。

 凪は無言でうなずく。


 美麗はそんな凪たちを一瞥すると、話を進めた。


「……さて、不参加のメンバーもおしゃべりせずに聞いてほしいところだが、我々六人の合宿先は『粋絆すいはん高原』にある所有者不明の謎のペンションだ」

「んん? 所有者不明で、かつ謎のペンションですか……?」


 思わず凪は声を上げてしまった。


 美麗は重々しくうなずいた。


「ああ。なんでも、日本政府よりも上位の組織の所有ペンションだそうだ」

「……そんなところに、ぼくらは合宿しに行くんですか? そこで大丈夫なんです?」

「分からん。そんなわけだから、遺書だけは書いておくように」

「えぇ……?」


 凪が困惑していると、奏が律儀に手を上げた。


「未婚教諭、ちょっといいかな」

「……相変わらず、貴様は憎まれ口を叩くものだな。いっそのこと、ガムテープで口を封じてやろうか?」

「そんなことをしたら、あなたは体罰を理由に解雇されてしまう。やめておいたほうがいいのだよ」

「安心しろ、北埜。あたしはな、とうに貴様と刺違える覚悟はできている。あとはタイミングだ」

「ふふん……おっかないったらありゃしない、とはまさにこのことだね」


 と、そのとき、奏と美麗の会話に彰人が不自然に混ざった。


「喧嘩するほど仲がいいとは、よく言ったものだ」


 不穏な気配、ただならぬ殺気。

 奏と美麗、彼女たちは同時に振り向く。


「誰が……仲がいいって?」

「どいつが……そんなことを言った?」


 身の危険を感じたのか、彰人はしらばっくれた。


「はて、なんのことやら」

「とぼけるのは貴様の得意分野か?」

「黒原くん、きみはカレーの恐怖を知りたくないかな?」


 彰人を口々に責める、美麗と奏。


 往生際が悪い彰人は、なおもしらを切った。


「うーむ、身に覚えがないのだが……とりあえず、カレーを作るのは得意だが?」

「黒原?」

「黒原くぅん?」

「……悪寒がするな。今日はひとまず家に帰るとするか」


 そう言って、彰人はスクールバッグを肩に提げ、教室から出ようとする。

 それを防ぐのは、やはり奏と美麗。


「ほらっ」

「よっと」


 それは鮮やかな連携プレーだった。

 美麗は彰人からスクールバッグをひったくると、それを奏にパス。

 彼のスクールバッグ、それを奏は教室内のゴミ箱にシュート。

 かくして、彰人のスクールバッグは、燃えるゴミのダストボックスにゴールすることとなった。


「ゴール!」

「ナイスだ、北埜」


 ゴールを決めた奏に、賞賛の言葉を送る美麗。

 それを見て、彰人は一言。


「さて、教育委員会の出番のようだな」


 それを聞いて、凪は一言。


「まずはぼくという親友を頼ってほしいところ」


 彰人は凪のほうをハタと振り返ると、「タコ助!」と誰が聞いても首をかしげる言葉を叫んだ。

 当然、凪は首をかしげた。


「タコ助……? 一体、誰のことだろう」

「お前だ。お前のことだ、タコ助」

「だから誰のこと」

「凪助」

「うん、惜しいね」

「助平」

「そんなことはいいから、とっととスクールバッグを取りに行っておいで」

「うむ……!」


 彰人は涙交じりに返事すると、フラフラとゴミ箱に捨てられたスクールバッグを取りに行った。


 そんな中、ようやく奏と美麗のまともな会話が始まった。


「竹原教諭はペンションを怪しんでいるようだけどね、知ってのとおり、あれは実質“わたしたち”が所有するペンションだ。何も怪しむことはないのだけれど」

「ふん、どうだろうな。貴様の“正体”について知る学校側でも、さすがにホワイトとは言い切れんが」

「ホワイトもブラックも、わたしたちには関係ないのだよ。なぜなら……いや、それ以上は言うのをやめておくけどね、ともかくあのペンションは何も怪しくないのさ。

 遺書なんてものは書かなくていい。というか、書かないでもらえるだろうか」


「おっと、癇に障ったか? それはすまないな」

「それに謝らないでもらえるかな……?」

「すまない。普段、貴様に厳しくしているぶん、謝らなければいけない気がしてな。すまないな、北埜」

「ふっ、分かればいいのさ、分かれば」


 不穏な空気が漂う中、そのとき桜が「質問です!」と元気よく声を上げた。


 美麗は深呼吸をしてから、「なんだ、島崎。お手洗いなら、さっさと行け」と興味なさそうに言い、質問があると言った桜の言葉を見事にスルー。

 桜は特段嫌な顔をせず、どころか上機嫌にニコニコと笑っていた。


「いえ、お手洗いじゃなくてですね~」

「なんだ、島崎。いやに元気だな……さすがのあたしでも、今のお前は気色悪いぞ」

「えへへ、照れますって」


 美麗の頬がひくつく。


「……褒めてないが?」

「あっ、そうですか? そんなことよりも……質問です! わたし専用のお土産は買ってくれますかっ?」

「買う予定はない」

「うぅ……なんて最悪な同好会、わたしは悲しいです」

「あたしは嘆かわしいぞ、島崎」

「竹原っち……!」


 泣き出す桜、ため息をつく美麗。

 何はともあれ、こうして本日の「東城交流の会」は終わった。

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