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変人少女は青春の嵐を引き起こす  作者: 最上優矢
第三章 お見合い大作戦

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元気の秘訣

 春から夏へと、季節は移り変わった。

 東城高校の桜の木には毛虫の代わりにセミが住み着き、校舎内では至るところでカップルがいちゃついていた。


 昼休み――二年一組の窓からカップルの様子を立ちながら眺めていた彰人は、こう毒づいた。


「元気な赤ん坊を……産め。やがては家庭内不和で絶望するがいい、このイチャイチャバカップルどもが」


 聞き捨てならない言葉を吐き捨てる彰人を見て、凪はそっと彼を叱った。


「ダメっ、彰人くん」

「そうだ、おれはダメ人間だ……なぜこの世に元気で生まれてきてしまったのか。できるなら、この世から家庭内不和を根絶させたい……あぁ、おれはなんという哀れなゴミクズ!」


 急に彰人は嘆いたかと思えば、「オイオイ」と泣き出した。

 凪はというと、ただただ彰人の情緒不安定ぶりに呆然としていた。


 そんなとき、奏が二人のそばにやってきた。


「いじめはダメなのだよ、遠山くん。早いところ、黒原くんに謝ったらどうだい」

「えっ、これっていじめなの……?」

「オイオイ……オイオイ!」

「……彰人くん、知ってる? 本当にオイオイと言いながら泣く人はね、この世にはいないんだよ」

「オイオイ……オイオイ?」

「おいおい、彰人くんさぁ」


 凪は笑顔で彰人の頭を、これでもかと両拳でグリグリした。


「オーイオ~イィ!」


 奇妙な悲鳴を上げる彰人。


「……本当に仲がいいね、きみたちは。この暑苦しい中、よくもまあいちゃつけるものだよ」


 奏はあきれたように苦笑いを浮かべた。

 しかし、これには凪も彰人も黙っていなかった。


「いちゃついてなんかないよ、北埜さん……?」

「愚か者、北埜氏……おれがいちゃつくのは、かわいいキャラクターの抱き枕だけだと思え」

「……彰人くんったら、かわいい抱き枕、愛用してるんだね」

「ああ。それもとびっきりかわいい“ペンギンの抱き枕”をな」

「彰人くん……!」


 急に凪は彰人のことが愛おしくなり、彼をハタと抱きしめた。

 彰人は「くっくっくっ……奴め、とうとう陥落したか」と言いながら不気味に笑っていたが、あえて凪はスルーした。


 奏は苦しそうにえずき、「ぐっ、歓迎会でカレーを食べて以来の吐き気が……うっ」と小走りで教室から出て行った。


 何事もなく、凪は彰人から離れると、さらりと話題を変えた。


「そういや、ぼくらの『東城交流の会』だけど……避暑地への合宿場所、決まったんだって?」

「そんなことよりも、遠山氏」

「うん?」

「おれはダメ人間か? それとも哀れなゴミクズなのか? お前さえ良ければ、このおれに教えるがいい。ダメorゴミクズ……いざ、ジャッジメント!」


 凪は鼻白んだ。


「……いつまで引きずっているつもり?」

「少なくとも、来世まで引きずるつもりだ」

「なら、ぼくはそれをハサミでチョッキン! ……ねえ、そんなに怯えた目をして、一体どうしたの?」

「ブクブク……」

「ちょ、彰人くん? 彰人く……ちょま、当たり前のように泡を吹かないでよ! ――あっ、竹原先生? ミス竹原、この哀れなカニをお助けください」


「――黒原! 出席番号二十七番、氷室のプリティーなハンカチだ……さあ、とっとと受け取れ!」


 教室に入ってきて彰人の異変を認めるなり、美麗はパンツのポケットから彩のハンカチを取り出すと、それに飴玉を包んでは勢いよく投げた。

 雰囲気のせいか、凪はこのような言葉を叫んだ。


「復活せよ、変態彰人くん……っ!」


 飴玉を包んだ彩のハンカチは弧を描き、ちょうど彰人の頭に――。

「……いざ!」

 ぶつからなかった。


 直前で、彰人は復活を果たし、飴玉が包まれたハンカチを両手でキャッチ。


「いいぞ、黒原。よし、そのまま飴玉を舐めてみろ」

「もちろんだ、竹原教諭。あなたの味がする飴玉は、一体どのような快感をもたらしてくれるのか……非常に楽しみだ。――どれ、舐めるとするか……むぐっ」

「マヨネーズ納豆味の飴玉は……どれほど快感なのか、このあたしに教えてくれ。なあ、く・ろ・は・ら……?」


「むぐっ……うっ――!」


 彰人、無事に昇天。


「……黒原彰人。彼が残した吐しゃ物は強烈な臭いを放ち、その悪臭こそが彼の味わった快感レベルなのだと、わたくし遠山凪は思うのであった。――彰人くんったら、大丈夫?」

「オエエ!」

「彰人くん……っ!」


 その後、彰人はジャージに着替え、一時限目の授業を受けた。

 教室にいる者は皆、彼の吐しゃ物の臭いをわずかに感じていたことだろう、と凪は授業中にそんなことを思った。


 そんな彰人は授業中、あきれるほどに元気だった。

 三時限目の休憩時間、凪は彼に元気の秘訣を聞いてみた。

 そしたら、彰人はキザったらしく笑うと、手の中にある“ハンカチ”を見ながら言うのだった。


「出席番号二十七番の氷室氏のハンカチがなければ、とうにおれはゲロ人間と化していたことだろう。ああ、そうだ……いかにも。元気の秘訣とは、このハンカチにほかならない」


 もう凪は何も言わなかった。

 何も言わない代わりに、凪は“優しすぎる笑み”を浮かべることにし、早めに自分の席に戻った。

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