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変人少女は青春の嵐を引き起こす  作者: 最上優矢
第一章 変人少女はソフトクリームを完食できない?

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友情のるんたった

 桜の嵐により荒れた教室の片付けを始めてから、だいぶ時間が経った。

 大量の桜の花びらたちは大きなポリ袋の中で眠らせ、プリント類は一箇所に集め、所有者不明の私物は凪と奏の学校机の上に並べることで、教室は元の平穏な姿を取り戻した。


「まあ、こんなところだね」


 奏は上機嫌な様子でクルリと一回転する。


「おれたちの手にかかれば、これくらいお手の物だな」


 彰人は女物のハンカチで額の汗を拭く。


「大雑把でいい、って竹原先生は言っていたけど、けっこうキレイに片付いたね」


 凪は彰人が手に持っていたプリティーなハンカチを奪い取ると、元の持ち主の席にそっと戻した。


「やい、遠山氏。それはおれのハンカチだ、返すんだ」

「いや、これは出席番号二十七番の氷室さんのだよ……?」

「この泥棒め」

「その言葉、そっくりそのままお返しするよ、変態泥棒彰人くん」


 凪と彰人の言い争いが始まってからまもなくして、「えへんえへん」という奏のわざとらしい咳払いが聞こえ、二人は奏に目を向ける。


 二人から注目を浴びた奏は、いつにもましてキザったらしく笑うと、お礼を言った。


「遠山くんに黒原くん、助かったよ。ありがとう! お礼だが、わたしの机の上にある物は、なんでも持っていっていいとも」

「ほう、それは悪くない」

「……彰人くん、本気にしないでくれる? ぼくはきみが泥棒になっていく過程なんて、見たくはないんだ」


「どうか止めてくれるな、遠山氏。もらえるものはもらっていく主義なんだ、おれは」

「頼むから、やめてね……?」

「むぐっ。分かった、分かったからその手を離せ、遠山氏」


 凪は彰人の首根っこをつかむことで、彼の静かなる暴走をついに止めることに成功した。


 凪が彰人を解放したと同時、奏は遠慮がちに「とまあ、それとだね、遠山くん」と凪の名を呼んだ。

 凪はキョトンとする。


「どうしたの?」

「いや、何! 桜の嵐を気に入ってくれたみたいで、何より。

 けれど、そんなきみも相当変わり者ではないか、と言おうと思っただけさ」

「あぁ、そのことね。ぼくが変わり者かどうかはさておき、ぼくは刺激的なことが好きなただの高校生だよ」


「ちなみに遠山氏よ、おれも刺激的なことが好きなただの高校生だが?」

「うん……悪いけど、変態的なことが好きな彰人くんと同じにしないでくれるかな」


 不敵に笑う彰人を、凪はバッサリと切り捨てる。

 彰人は不満そうに口を尖らせた。


 それで話は終わりになり、このグループは解散、そう凪は思っていたが、それは違った。


 奏は凪と彰人に両手を差し出した。

 凪が彰人と顔を見合わしたとき、奏が「諸君!」と叫んだ。


「わたしと友達になってほしいのだが……ダメ、か?」


 凪はあることに気がついた。

 いつもどおりに見えて、奏の顔は真っ赤、しかも両手は小刻みに震えていることに。


 凪と奏の視線が合った。

 数秒後、奏は顔をそらし、「こ、こう見えてわたしは友達作りには自信と定評があってだな……友は数え切れないくらいにいるのだよ。聞いて驚くな、諸君。いや、何も聞くな!」と今度はシャドーボクシングを始めた。


 彰人は凪に耳打ちした。


「遠山氏、きみは彼女と友達になるがいい。おれは北埜氏の彼氏になれるよう、甘い言葉をささやきながら説得を――ぐはっ」


 奏の放ったパンチは、彰人の顔面に見事直撃。

 そのまま彰人は床に倒れ、すっかり伸びてしまった。


「……失礼した」


 奏は白々しくお辞儀をする。


 凪は白目をむいて気絶している彰人を一瞥してから、奏に向かってほほ笑んだ。


「大丈夫、きみの思いはぼくたちに伝わっているから。すでにぼくらは友達同士だよ」

「むっ、しかし……わたしは変わり者だぞ? そんなわたしを受け入れてくれるのか?」

「それを言うなら、ぼくは平凡だし、彼は変態だ」


 ニッと凪は笑うと、奏と握手をした。

 それで奏はいつもどおりに戻った。


「ふっ……礼を言うぞ。すでにわたしたちは友達であり、仲間だ!」

「むぅ……む? 友達、仲間、だと?」


 気絶から覚めた彰人の手を、すかさず奏はつかむと、「るんたった、るんたった」と歌いながら、彼を引っ張り起こした。


「るんたった、るんたった~」

「うーむ、なぜおれは床に倒れていた? 真新しい記憶が抜け落ちている気がしないでもないのだが……遠山氏、おれの抜け落ちた記憶が何か、教えてはくれないか」

「悪しきセクハラには、正義のヒヨコピヨピヨパンチを」


「るんたった!」

「ふん、だと思ったぞ」

「なら、わざわざ説明させないでね……?」


「心得た」

「るんたった」


 そのとき、二時限目の授業が終わるチャイムが鳴り響いた。

 と同時に、美麗が教室にズカズカと入ってきた。


 凪たちは握手するのをやめ、美麗のほうを向いた。

 美麗はキレイに片付いた教室を気に留める様子もなく、奏をにらみつけながら、廊下のほうを顎でしゃくった。


「来い。校長と貴様の両親が、職員室で待っているぞ。今こそ年貢の納め時だ、北埜」

「ふむ……それほど悪いことをした覚えはないな、正直」

「じゃあ貴様は何をした。――うるさい、つべこべ言わずにさっさと歩け。ほら、来い」


 美麗は自分から訊いておきながら、奏の返事を許さないという暴挙に出ると、そのまま奏を職員室まで連行した。


「行っちゃったね」

「ああ。……ところで、遠山氏」

「何? 出席番号二十七番の氷室さんのハンカチなら、諦めて」

「なぜ諦める必要があるのか?」

「いや、もうみんな教室に入ってくるから……あっ、彰人くん、ダメだってば。いやいや、ダメダメ!」


 どうにかして、凪は彰人を自分の席に座らせる。


 次々と教室に入ってくるクラスメートに対し、凪と奏の席の上に自分の私物がないかどうか、凪は聞いて回った。


 今日はいつもよりも忙しい、そう凪は苦笑し、すっかり物がなくなった机に頬杖を突きながら、三時限目が始まるまでのほんの少しのあいだ、ウトウトとしていた。

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